サワードウ投稿の3日め。書いているうちに、ワタシは思ったよりも相当深くサワードウ教にハマっている、ということに気づいた。
先日の投稿で、入門書の次のステップとして Chad Robertson チャド・ロバートソンさんというサンフランシスコのパン屋さんの本
Tartine Bread タルティーン・ブレッド
を購入してあった、と書いた。買ってすぐにパラパラとめくった時は、実は結構笑っちゃったのだった。
というのも、チャドさんの代表的なレシピ、サワードウ界の「踏み絵」とも言える「タルティーンのカントリー・ブレッド」。いの一番にレシピを探したが…..
レシピ、っていうか….なんと28ページにもわたる「物語」になっている。書き手の情熱がうかがえる、なんてもんじゃない。こりゃ「偏愛」だわな。
レシピの後さらに10ページの
In Depth 徹底解説
が続く。これも入れたら合計38ページだ。
彼には、ソノマの山の中で10年以上自分一人で釜を作り、薪を割りパンをこね続けた、とか、温度調整がうまくいかない時には発酵中のパンたち200個を連れ夜を外の車の中で過ごした、時間通りにサワードウに餌やりができるよう映画館にも持って行った、とかお目目ぱちくりのエピソードが。
その頃までは私も「まあ、いくらなんでもパンにここまで….この人、パン・フェチ……」と思ったことを覚えているので、まだまだこれは踏み絵を踏まされる前だった。
第一、3日かけてパンを焼く、って…..。食べちゃったら終わりなのにさ。
それが今では彼の本をありがたく読み、38ページのレシピもしっかりとメモをとり、自分のドウの状態と本の写真を丹念に見比べる日々。薪を割りはしないが、庭にレンガの釜があればいいな、と実は思っている。….
でもチャドさんが相当変わった人だと言う印象は今も同じだ。
いま冷蔵庫で眠っている私のカントリー・ブレッドの種。チャドさんの「冷蔵庫で〇〇時間」、これは単なる目安で「ドウが〇〇な状態になったら」次に進む、という表現が多発。
「元気がないようなら様子を見てもう少し入れておく」って、レシピと言えるのか?
パンが型にくっついてしまったら「次に焼くときは気をつけよう」って。今、このくっついたパンをどうしたら良いのか教えて?
確かにこの本は初心者には難しいと言われているわけだ。
さて、このカントリー・ブレッドの3日に渡るちょっとフェチっぽい工程は下の通り☟
第一日目・スターターの餌やりとレヴェン作り
小麦粉と水だけで空中の菌の力を借りて作るサワードウ・スターターは、一度作ったら粉を継ぎ足して何十年でも生き続けさせることができる。
スターターを使ってパンを作ったら次回のためにほんの少し瓶の底に残し、普段は冷蔵庫に入れて眠らせてある。作りたい時に冷蔵庫から出し、常温に戻ったころ小麦粉と水を重さで同量加えてかき混ぜる。これを
Feeding フィーディング 餌やり
と言う。瓶の外から高さがわかるよう青いゴム輪をはめ、いい子で頑張ってねと声をかける(これはサワードウやっている人はみんなやってる笑)。
数時間で青いゴム輪の二倍の高さまでぷくぷくと膨らんだらスターターは active 活発で、下拵えの「レヴェン作り」ができる状態だ。
レヴェン作り
サワードウ・スターターをたったの大匙一杯、これに粉と水を100グラムずつ加え、軽く蓋をして夜を越す。朝になって出来上がっているものがクリーミーな
Leaven レヴェン パンだね、酵母種
というもの。これを普通のパンを焼く時に使うイーストの代わりに加え発酵の媒体とする。1日目の作業はこれだけ。
第二日目・発酵・丸めて・冷蔵庫で休ませる
翌朝、レヴェン100グラムとパン本体の分量の粉(パン一個で500グラムの粉を使う)、水350グラムを混ぜて馴染ませたら10グラムの塩を加える。卵、牛乳、砂糖、オイル類は全くなし、材料は粉、水、塩のみ。
(混ぜた直後 👆)
サワードウパンの種は、全く捏ねない。混ぜるだけ!
しばらくは30分おきに折りたたむように混ぜ、外から発酵の泡の様子が観察できるよう透明な入れ物の中で発酵してくれるのをひたすら待つ。ただ見守るのみ。
(30分後 👆)
(2時間後 👆)
おっと忘れちゃいけない、混ぜ混ぜの前に昨夜作ったレヴェンがいい状態かどうかを調べるため、水に落としてちゃんと浮くかどうかの
Float Test フロート・テスト
をするようにチャドさんから厳しい指示が入っている。沈んだら過発酵なので、やり直し….
….しないけどね。沈んでもちゃんと焼けるってわかっちゃったもんね。
完璧を目指すと間違いなく挫折する。
実は、塩は最初に入れず30分経ってからドウに水にといた塩水を揉み込む、と書いてある。ま、これはそんなにハードル高くないのでやっているけれど、以前作っていた、塩を同時投入のレシピでもシロウトには出来の違いは感知できなかったよ。
とにかく細かいことが抒情詩のようにたくさんたくさん書いてあるレシピ物語なのだ。
8時間から12時間くらいで大きめの気泡が可愛らしくぷくぷく見えてきたら一次発酵は終わり。容器を揺らすと、いい感じで張力のあるクリーム色のパンだねがゆらりゆらりと左右に動く。
8時間から12時間???と思われるだろうが、気温、粉の種類、折り畳んだ時の空気の含み具合、塩の種類、入れ物の形….?その時々で何がどう影響して発酵時間に差が出るのかは相当焼いてきた人でも、推測はできても確実にはよくわからないらしい。
私も「もう泡が出てきた!」と思う時もあれば「なんか遅いねえ」とヤキモキする日もある。私の目安はとにかく、容器を揺らしてみた時に巨大なゼリーやプリンのような「張りのあるゆらゆら」を見せたらそれでよしということにしている。
型から出しボール型にまとめたらベンチタイム。少し休ませた後、最終発酵用の
Banneton バネトン型
という天然素材の発酵用のカゴに入れ、冷蔵庫に入れて夜を越す。
(これが夜👆下は冷蔵庫12時間後👇もう焼いて大丈夫)
私のバネトン型は日本で買ったのでちょっと小さめ。大きめの買いなさい、とチャドさんから言われそうだ。ここまではみ出てると型から取り出しにくい。
もし購入される時は、チャドさんはオーバル(小判)型25センチというのをお使いのようだ。
第3日目・やっと焼く
オーブンは260度と超・高温。チャド式は、ダッチオーブン(大きな深鍋)をオーブンと一緒に予熱して、上に切れ目を入れたパンの種をアツアツに熱した鍋の中にいれ、蓋をして焼く。
鍋の中に蒸気を閉じ込めることで、クラストが乾燥して硬くならないうちにパンの内部が膨らむことができるから、とチャドの物語風レシピに書いてあった。
サワードウ専用のかっこいい深鍋もたくさん売られているけれど、私は日本から持ってきた「無水鍋」を愛用。深さもあって軽くてちょうどいい。
こちら私のパンの出来上がり。
チャドさんのみたいに少し焦げたくらいの焼き上がり。切り目は違うけど他はそっくりにでけた。
チャドさんの申し付けを多少すっ飛ばしてもこのくらいは焼けるという証拠だ。
忙しい人に焼いてもらいたいパン
3日かかると言ってもほとんどが待っているだけの時間で、手をかけるのはすべての工程を合計しても30分もない。
実は忙しい人向けのパンだと思っている。
一次発酵が終わりそうだけど出かける用事が….という時は、私はパンに専用のシャワーキャップ(ラップより全然いい。これが一番よ)をかぶせて冷蔵庫に入れちゃう。
(アマゾンで使い捨てシャワーキャップ髪染め用100枚入り9ドルで売ってるもの)
冷蔵庫の中で温度が低いと発酵がおそーくなるので、一時停止ボタンということだ。外出から戻ったらカウンターに出してまたレシピ通りの工程に戻る。
仕事が忙しい人なら、朝混ぜたパンを放っておき、帰宅したら成形して冷蔵庫に入れ、3日目の帰宅後にささっとオーブンで焼けばなんと晩ごはんはスープと焼きたてパン🍞なんて贅沢も!
サワードウは夜ちょこちょこと作業をした後は待ち時間だ。1時間おきに作業が入り、週末の午後4時間位は軽く取られてしまうような普通のイーストのパンを焼くよりかえって楽なのだ。
もちろん途中で停止ボタン押してるなんてことがチャドさんにバレたら怒られるけど、こちとら売るためのパンや芸術品を作っているわけではない。
自分にあった時間割で楽しく焼けるものでないとつまらないし、続かない。
実はこのサワードウ・ワールド、立役者は断然男性が多いよ。アマチュアのサワードウ・コミュニティを見ても、世話人は若い理系の男性というのが多いのだ。不思議。
前回の投稿で、パン作りは化学で科学で物理学、と書いたが多分その辺が心にぐぐっと来るのではなかろうか。古代からの人間の知恵と、サバイバルに必要な食べ物とつくっているのだというとても人間臭い部分とサイエンスな部分の絶妙なコンビネーション。
このあたりがやはりサワードウに取り憑かれるタイプの人にはたまらんのだと思う。私もたまらん、ますますハマる…..。私は若い男性じゃないけどさ……。
(P.S. チャド本のレシピが物語風に長すぎて、細かすぎて偏愛感アリ、とクスクス笑ってるくせに『実践編』なのにお話ばかりで私のも全然レシピになってないね!)
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