なんちゃってニューヨーク

普通の人のアメリカ生活


バレリーナ農場の文化的背景

先日、産後わずか2週間の完璧ボディで既婚者のためのミスコン、Mrs. World ミセス・ワールドにアメリカ代表として出場したハナ・ニールマンさんという女性について書かせていただいた。

アメリカではビューティ・コンテストというものの立ち位置は微妙だ。なんてったってフェミニズムの国だからね。廃止にしたらという意見もあるし、なんというか、美貌で勝負というコンセプトがちょっと時代に逆行している、という感覚が薄っすらとある….のだけれど、アメリカの真ん中辺りの保守的な地域ではまだまだ根強い人気を誇っているよう。

ハナさんのバックグラウンド

彼女は末日聖徒イエス・キリスト教会(通称モルモン教)の大本山ユタ州の生まれで敬虔なモルモン教徒。もちろん一概には言えないが、伝統的な家族やコミュニティのつながりを大切にするモルモン教独特のソサエティがあり、子どもは核家族ではなくコミュニティで育てるもの、という認識が強いと聞いている。

以前は一夫多妻も認められたモルモン教では一般的に子沢山の家庭が多く、ハナさん自身も9人兄妹の1人。ハナさんの旦那さんは10人兄妹。ハナさんの妹ミカさんは数ヶ月前に10人目の子どもを出産したばかりだそうだ。33歳で健康体のハナさん、これからももっと子供の数が増えそうな気配だ。

アメリカには

It takes a village. 村全体で子どもを育てる

という言葉があるが、敬虔なモルモンのコミュニティでは「シスター・マム」と言う非公式のお母さん共同体があり、親戚始め複数のお母さんたちがチームとして全体の子どもたちの養育に関わるというシステムがある。

孤独な子育てで追い詰められるよりそのような共同体があれば母子ともに精神的には楽に違いない。9人10人という数の子どもを育てるにはこのようなサポートがなければ難しいことだろう。

多様な宗教的コミュニティが今も存在するアメリカ

読者の皆さんに偏見をもたせるような表現にならないよう気をつけて書きたいのだが、モルモン教コミュニティにおいて、以前の一夫多妻制時代には、みんなで子どもの世話をするのは「シスター・マム」ではなく「シスター・ワイフ」であった。同じ男性と結婚している女性同士は、男性を中心につながるシスターであり、もちろんひとつ屋根の下に住み大家族として暮らすのが伝統だった。

やはり伝統や宗教に独特の文化というのは一蹴しがたいものがあり、特にそのコミュニティ内部の人たちがその文化を心地よいと感じ守っていきたいと思っている場合は親から子へと受け継がれていく(一夫多妻は法律で禁じられている)。敬虔なモルモンコミュニティでは今もホームスクーリングや教会が運営する学校に子どもを通わせるケースが目立ち、育っていく子どもたちにも同じ価値観が受け継がれていく。

ユダヤ系のハシディックや、ペンシルバニアのアーミッシュ、バイブル・ベルトの原理キリスト教徒など、このようなコミュニティはアメリカに多く存在するが、モルモンの場合はハイブリッドというか、自分たち以外の文化を否定して頑固に自己の文化を守るという雰囲気は感じられない。

伝統的コミュニティのアドバンテージ

旦那さんのお父さんは、ジェットブルーなど数々の航空会社を立ち上げてきた億万長者で、モルモン教の有力者、デービッド・ニールマン。ハナさんのご両親も全国的に生花の卸を手広く行っている会社の経営者で、ジーンズで牛の乳を絞り自給自足の自然に根ざした暮らしをしているハナさん家族、実は経済的にはアメリカの上位数%に属する超・富裕層だ。

Photo by Bridget Bennett for New York Times

このインフレのアメリカで、8人の子どもを持つことができると言うのはもうそれだけでステータスだ。大学の費用が1人何千万もかかるこの国で1人子どもを持つのだって苦しい家庭がたくさんだ。

が、またここでモルモン教コミュニティには

Brigham Young University ブリガム・ヤング大学

という救いの手が。ソルトシティレイクにあるこのモルモン教系大学は、裕福なモルモン教徒からの潤沢な寄付が集まり、学生は僅かな費用で大学教育を受けることができるという(はっきりしたデータは公表されていないので確認はできなかった)。これもまた多産を可能にしている一因と言える。

コミュニティの看板娘?

伝統的なコミュニティ内部でお互い守り守られながら生活を成り立てているこのソサエティ。万人向けではないかもしれないが、このスタイルがピッタリ合っているという人たちにとってはとても暮らしやすいに違いない。この背景があってこそのハナさん、アメリカ随一のインフルエンサーだ。

ミセス・ワールドに選ばれると、その名声を活かしてお金稼ぎはできるけれど、賞金は全く出ない。出場費だけで30万円。ドレス、水着、メイク、移動費などすべて自己負担。上位に入らなければ全く採算が取れないビューティコンテスト。

下の写真のイーグルのお衣装も自前ということだ。

Photo by Bridget Bennett for New York Times

ハナさんの場合は、ミセスアメリカンに選ばれた時点でインスタだけでフォロワーが900万人に達し、バレリーナ農場やご自身の実家の生花卸業の名声を全国区へと押し上げた。彼女をインスタで知った私もハナさんとおそろいのエプロンを買いに農場のオンラインストアをのぞきに行った。残念ながら売り切れだったギンガムチェック、エプロンにしては破格の70ドルを払いポチするところであった。こんな一見さんがたくさんで、農場の売上もうなぎのぼりに違いない。

冒頭にも書いたが、アメリカ、特に東と西の海岸地方では微妙な立ち位置のミスコン、美しさを武器にするのは潔くない、という認識とはちょっと異なった文化。人それぞれ意見はあろうが、持っているものを活かして何が悪い…..?ハナさんは見事に成功したケース、優れたビジネスウーマンと言うべきだろう。

しかし…..

アドバンテージもある保守的なコミュニティではあるが、ワタシ的に気になるのはこういったコミュニティでの「女性」の立場だ。伝統的、イコール女性の役割が限定される、おそれが?

ハナさんの所属するモルモン・コミュニティ、お父さんは?シスター・マムならぬ「ブラザー・ダッド」はあるのか?お父さんたちは子育てに積極的に参加するのだろうか? 

人の生き方や考え方に文句をつける権利は誰にもないしそのつもりも毛頭ないが、彼女のようにあまりにも強烈に輝くビーコンは下手すればそれを政治的に利用する輩(やから)が出てくる。それが気になる…..。

明日はそれについて書きたいと思う。

**最後に。私はモルモン教コミュニティに潜入レポートしたわけでもなく、ここで書いたことはモルモン教徒の友人に聞いた話や各種文献、書籍、オンラインの情報に基づいている。私感も入っているため、あくまでもここではハナさんという人物の輪郭を浮き彫りにするための記述であることをご理解いただきたい。

ユタ州を離れて伝統的なコミュニティに住んでいないモルモン教徒のほうが多いのではないかと思うことを付記しておく(統計は見つからなかった)。



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About Me

ニューヨークから40分南に下ったニュージャージー州から発信。だから「なんちゃって」ニューヨーク。マンハッタンのおしゃれな情報をお探しの方は他にたくさんブログがありますのでそちらをご参照くださいね。元・MBAの仕事人、在米約30年のアラ還。アメリカ人の夫とエンプティネスト元年を満喫中。わんこ3匹で毎日がわや、普通の人のアメリカ生活の記録です。

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