先日の投稿で、電話を取った瞬間に「今日はイジワルをしよう」と決めたと思われる受付女性に理不尽な対応をうけながら『怒ったら負け、怒ったら負け…..』と全身に力を入れて我慢を続け、みごと獣医さんの予約をゲットしたお話をした。
今日はそのリカバリーのお話だ。
受付の人はこちらの希望も都合も聞かず『じゃ、3時20分ね』とだけ言った。どの獣医さんに見てもらえるのか聞くとぶっきらぼうに『ドクター・アイリーンよ』。
ドクター・アイリーン?知らないお医者さんだな、とふっと不安がよぎるが贅沢は言えない。
3時20分は時間的にちょっときつい。自分の歯医者さんには『今日はこのあと用事が入ってます』といそいでもらい、スピード違反スレスレで帰ってきた。っていうか完璧スピード違反だ。
長男(犬)を車に乗せて獣医さんへ。
呼ばれて部屋に入ると『高校生???』っていうくらい若いお肌ピチピチの女の子が…..おー、のー、これがドクター・アイリーンか。
私の経験から言って、獣医さんは年配の経験の深いお医者さんに当たりが多い。だから、この夏に獣医学校を卒業したんかい….という感じのアイリーン先生を見てがっかり。
質問もちょっと的を外れてるような?あれ、でも。白衣の胸に名前が刺繍されてる。ドクター、アイリーン、ダービー。
ダービー?
そこで私の中のお母さんがむくっと顔を出した。『あら!ダービー先生のお嬢さんなのね!?』
恥ずかしそうに『はい、そうなんです。今月入りました。』
ダービー(母)先生は、いかにも『人間なんかより動物が好きです』見かけ全くかまわないばあちゃん先生で私の好きな獣医さんの一人だ。
なるほどドクター・ダービーが二人だから、娘さんはドクター・アイリーンって呼ばれてるのね。
娘さんだからといって安心するのもナンだけど、オバちゃんはなんか心温まった。そのあと奥の診療室に長男は連れて行かれ、処置と検査をしてもらってお菓子をもらって帰ってきた。
アイリーン先生は『奥の診療室に母も来てるから一緒に見てもらって、悪性じゃないから今のままだましだましで行くか、思い切って麻酔で切り取るかの二択だってやっぱり言ってますね』。
受付にはめっちゃ腹が立ったけど、母娘・獣医さんのダブル診療がとってもラッキーだった。
櫛を通したことないって感じの白髪を『やまんば』風に振り乱し、いやがる犬と格闘するダービー先生にこんな可愛らしいお嬢さんがいて、しかもお母さんと同じ職業につくって決めたなんて。
他人事ながら嬉しくなった。
長男の薬を待つ間、おとなりに座るまっ黒のポルチュギーズ・ウォータードッグは床にペタリと寝そべり元気がない。彼を診察したらしいお医者さんが紙のフォルダーを持って出てきた。
『先方には連絡してありますから、これとこれを持ってすぐに行ってね、なんとか通りとなんとか通りの角にある建物だから。なにか必要なものがあったら、私でも他の獣医さんでも、スタッフでも電話して何でも遠慮なく言ってね』
そして、アイム・ソーリー、グッドラック、と気の毒そうに診察室に戻っていった。一緒に来ていたお父さん風の男性がわんこの黒い頭を撫でると、犬はしんどそうに首を持ち上げてお父さんを見つめる。
後ろ足の一本の毛がきれいに剃られているので、点滴をしてもらっていたようだとわかる。
私の反対側の女性が遠慮がちに、ね、そこの病院ね、偶然だけど私のテニス友達の旦那さんの病院なの、とお父さんに声をかけた。
いい人たちなの、心を込めてお世話をしてくれるからね、と。
ここで、あ、末期がん専門のホスピスを兼ねたあの動物病院だ、とピンときた。そしてしんどそうに寝そべる黒い犬を見て、私は不覚にも涙が出てきてしまいそうになった。
お父さんの静かな悲しみが伝わってきて、それをわかっているような黒い犬の表情。左のつま先にだけ少し白い毛がある。
Let’s go, buddy.
さ、行くよ、buddy 相棒、と呼んで静かに犬を助けて立ち上がり、帰っていった。反対側の女性も私も言葉がなかった。
大きなおできを背中にからい、後ろ足はリューマチが進んでおすわりが辛くなった。でもちょっと目を離すとテーブルの上のトーストを器用に盗む長男。
あのー、後ろ足が痛たかったんじゃなかったですかね?食べ物を見るとそんなことは忘れてビヨーンと立ち上がる。鼻の上の毛もまつげも薄くなり、お風呂に入れると毛の下のピンクの皮膚に老人斑が目立つ。
手足の筋肉は落ちてフローリングでよろける。でもあの黒い犬のような末期ガンじゃない。
この子が来た12年前、夫と「次男が大学に行ってしまう頃きっとこの子もいなくなっちゃうね」と話していた。
次男はこの8月に家から巣立って行った。この子はあと何年元気でいてくれるだろう?今も受付に置いてあるクッキーの入れ物を凝視してよだれを垂らす愛おしい老犬。
そんなことを思うと数時間前には受付の女性に腹が立ってたことなんか、すっかり忘れてしまった。
It’s not my problem. It’s HER problem. 私に落ち度はない。 彼女の問題だ。
虫の居所が悪かったのか、そう言う人なのか。気の毒だ。ペットの不調に心を痛め、心細く電話をしてくる飼い主たちにあんな物言いをする彼女が「ああ今日もいい1日だった」と幸せに眠りにつくとは思い難い。
結果的に、長男の背中は薬をもらって痛みが引き、可愛い母娘の獣医さんに丁寧に見てもらいお菓子までもらった。
わたしはというと焦ったけれど、歯医者さんは「あら、それは大変、わんこ心配ね」と獣医さんに間に合うよう診察を超特急でしてくれた。
私の1日は結果オーライ。いい日だった。「怒ったら負け」とギリギリと体に力が入ったことも忘れた。だからもういいんだよ…..
All good. It was a good day.
大きなおできに触らないよう気をつけて背中を撫でながら、今夜もこの子と眠りにつこう。それでいい。
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