なんちゃってニューヨーク

普通の人のアメリカ生活


社会問題は、在るのか、作られるのか

この人の書いたものならほとんど全部読んだ!というくらい好きな作家さんは数人しかいないが、その一人は2021年にがんで亡くなられた山本文緒さんだ。

新刊が出ない時期が長く続き、待ちわびた新刊は「再婚生活」、文緒さんの壮絶なうつ病闘病記だった。読むのが大変難しかった。

再婚生活と、亡くなる寸前まで書き続けたがん闘病記「無人島の二人」の間に出版された「自転しながら公転する」を昨夜読み終えた。アラ還になると、夜明けまで夢中で本に読み耽る、ということが現実的に無理になるんだが(´;ω;`)、この本はアラ還の体力が許す限界、日付が変わる時間まで夢中で読んだ。

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恋愛小説のバックドロップ

主人公二人の行く末をハラハラと見守る恋愛小説。そのあらすじだけでも力強いのに、500ページの中にさり気なくてんこ盛りの社会問題の示唆の数々。各種コンプラ、少子化問題、ワーキングプア、核家族で老いていくこととその不安、自然災害、学歴社会、男女格差。でもこれは社会小説ではない。それらの問題は決して表には顔を出さず、うっすらと小説全体の背景となっているバックドロップだ。

一見明るく、本にもニュースにも興味がない、何も考えていないようなアパレル販売員の主人公が実は深い深い不安感を心の奥底に抱え、どうしてニュースを見ないのか、その理由が何となく浮き彫りにされる一文がさらっと挿入されている。

「自分の生活に直接関わりがないなら見ないふりしたい。」

主人公と同じ年くらいの読者ならなおさらのこと、自分の人生と置かれた状況と気持ちがこの物語の何処かには当てはまるはず。

文緒さんの見事な文章と語り口で、書いてあることがガンガンとこころに訴えてくる。若くナイーブな読者が「あれ?今んとこ不満も疑問ももってなかったけど、いつこの本みたいな気持ちや状況になるかわからないな、なんとなくもやもやしてたのはこれだったのか」と、文緒さんの目で見た社会問題が身近になる。

昨日まで深く意識していなかった不安感が今日はちょっと本物っぽくなってしまっている…..。

ほんとに不安になるべき?

最近読んだ本、例外なく社会不安がバックドロップになっている、と感じる。本だけじゃなく、噂には聞いていたが帰国時に見たテレビのニュース。

羽田についた夜、時差ボケで折り詰めのお寿司を頬張りながらホテルでテレビをつけた。NHKでやっていたのは「過労死」特集だった。ふむ、次。そしたら青少年の自殺、少子化。ニュースをさがすと今度は政治家の汚職と自然災害。

日本に到着して、入国のスムースさ、人の親切さ、清潔さ、と私は感無量でいるのにテレビの中の日本は….別の国だ。

空港で「吉祥寺行きのバスのチケットをお願いします」と窓口でお姉さんに言ったら、掲示板や画面を見るでもなく「はい、次発は5時5分になります、のりばは10番です。そこの出口を出られたら右にすぐののりばです。」とよどみなく、しかもニコニコと教えてくれた。頭に入ってるんだよ?アメリカではそういうのありえない。

折り詰めを買いに行ったキラリナの中の食品店。豊富な食品がきれいに並び、レジの列もお客さんのさばき方も無駄がなくスムース、買う方もちゃんと人の邪魔にならないように列に並ぶ。

メディアの日本は別の国

到着の数時間そんな祖国のすばらしさを満喫してテレビをつけたらそこに出てくる日本は、明るい将来を望むべくもない暗くしぼんでいくだけの、円安と長い労働時間と少子化と男女格差に苦しむ国。

なんかこのギャップ。このことを兄に話した。底抜けに明るすぎる兄の意見はあまり当てにならないが「じゃないと誰も見ないだろう?」という。

暗いニュースじゃないと、ニュースを見たぞ!って気がしないんだよ。これでもかこれでもか、って見ちゃうだろう?明るいニュースやったって誰も見ないからなあ、特に深夜。毎日放送が一番すごいぞ、延々と社会の暗いニュースやってるぞ、わっはっは。

おーのー。60過ぎて酸いも甘いも噛み分けたおっさんが暗いテレビを見て「またやっとるわ」と見るのとは、今難しい人生の渦中にあり、漠然とした不安を抱えた世代が毎日毎時間、小説も、テレビもXも「明るいニュースやったって誰も見ないから」という理由で不安を煽るような内容ばかり目にしているとしたら、もうこれ、大問題よ???と思わん?

社会問題の大きさの測り方?

社会問題って、一体どの程度なの?誇張されてるの、それとも本当に将来に夢が持てなくなっちゃうくらい深刻なの?無視してはいけないけど、そればっかりに囚われては先が見えなくなる。でももうすでに暗ーい気持ちでいるときに「これでもか」と耳に入ってくる情報。否が応でも冷静に問題の程度を測ることは難しくなる。

テレビやニュースはまさしくこの理由で「あまり見ないほうが良い」というのが通説となりつつあるけれど、好きな小説、漫画、SNS。全部避けるとしたらそれこそ山の中でオフグリッドするしかない。

どないしたらええの。社会問題ってほんとに在るんだろうか….どの程度?どの程度が本物で、どの程度がメディアや私達の想像や不安で膨れ上がっている部分なんだろうか?

短絡的な比較はよくないと承知の上、でもあえて言わせてもらうとしたら、社会的不安はアメリカだって相当大きい。健康保険をもたない人がたくさんいるこの国で、がんになったら間違いなく破産だ。独居老人だって、自殺だって、たくさんある。銃犯罪に至っては言わずもがな。糖尿病などの成人病だって半端ない。ホームレスに移民問題。長時間労働。ウォールストリートや弁護士さん、会社勤めの人、出勤はしないにしても完全に携帯を切ってしまえる人はまずない。休暇中だってそうだ。子供の学費、大学に行かせたら簡単に何千万というお金が飛ぶ。進学させる余裕のない家庭は学生ローンを組み、21歳の卒業時に数千万のローンを抱えしまっているというのは珍しい話ではない。

とまあ、人間が生きているのだからすべてが上手くいっている社会なんてない。

日本はいいところだよ

そんな中で、働く人が皆プロ意識を持ち、責任感がゲロ高く、おとしものは出てくる、トイレ掃除にだって手を抜かない。人のことを思いやる資質をみんなイヤでも持っている、文盲率が限りなくゼロに近く、国民皆健康保険。少ないかもしれんが年金があり、電車に乗るときには、降りる人が全員出るまで待つ。災害のときの助けあい。規律。秩序。食べ物の美味しさに町でも商品でもなんでもすばらしいデザイン性。大型バスのタイヤでさえきれいに磨かれている国。言い出したらきりがないほどすばらしいところだ。我が日本。

乗客を90秒以内に脱出させる訓練を毎月行っているJAL。事故の悲惨さはなんともつらいが、アメリカの報道では「400人が90秒で脱出」とどこでも繰り返されていた。

これは今朝のテレビの画像。90秒のことを大きく報道

東北大震災のときの秩序、思いやり、そして混乱を利用した犯罪がまったくなかったことが話題になった。ちょっと方向は違うが、ワールドカップで観客も選手も掃除をして場所を清めて帰るその姿は世界中を驚かせた。

東京オリンピックでの選手村や選手運搬のスムースさと手厚さに世界中の選手は感動してたのだ。

ね、たくさんいいところがあるでしょう?社会問題は無視はしないで、でも反対のいいところをもっともっと見てほしい、と外国ぐらしの私はそう思う。

さいごに

さて、文緒さんの小説は、社会問題のバックドロップの中で主人公たちはそれなりの幸せを見つける。ハッピーエンドだ。ε-(´∀`*)ホッとした。

ちょっとネタバレになるが、小説の最後。

「そんなに幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不安が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ。」

これが答えだ。社会不安はあるけど、半分はメディアで作られたものかもしれないよ。鵜呑みせず、自分のものにはしなくていい。自分は明るいところ、今何ができるかってことに焦点を合わせて、まあまあの線を目指してやっていくっていうのがいいのかも。ネ?



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ニューヨークから40分南に下ったニュージャージー州から発信。だから「なんちゃって」ニューヨーク。マンハッタンのおしゃれな情報をお探しの方は他にたくさんブログがありますのでそちらをご参照くださいね。元・MBAの仕事人、在米約30年のアラ還。アメリカ人の夫とエンプティネスト元年を満喫中。わんこ3匹で毎日がわや、普通の人のアメリカ生活の記録です。

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