なんちゃってニューヨーク

コロナの頃から、公衆の面前でキレる人の短い映像がSNSでよく出回るようになった。機上でマスクをしたくないとキレる男性や、理由は定かじゃないが近所の人に噛み付くおばさん。すでにキレているのに携帯をぐぐっと正面に突きつけられてさらにキレる。見ていて気持ちのいいものではないが、唖然としてつい、見てしまう….

先週同じ町に住む友だちからぶちギレ白人女性の動画が送られてきた。スエットにサンダル履きのその女性は、アイスクリーム屋さんの窓口で「私は返金なんか納得しないわよ！マネージャーを呼びなさい！注文したものを今すぐよこしなさい！」としばらく叫んだあと、カウンターの上にあった紙ナプキンのディスペンサーを店員さんに投げつけて

Fxxx You!!! フ〇〇ク・ユー！！！

と捨て台詞を投げて車に乗って去っていった。その車はこちらではお金持ちがよく乗っているテスラ、それも真っ赤の。

彼女が注文したもの、それはバナナスプリット。お金を払ったあとになって品切れとわかってブチギレたんだって。ここまでならアメリカあるある（残念なことに）なので驚きもしないが、このテスラ女性はなんとその友だちのご近所さんだったのだ。小学校の近くなので私もよく通ったストリートに住んでいる人。

その人の画像が世界中で配信されて「バナナスプリットでキレた女」として有名に。なんか、リアルアメリカがこの平和な町にも、と変な感慨に浸った。

アメリカの他の地域に住む日本人のひとたちと話すと「東海岸のアメリカ人がいちばんコワイ」という。それ考えなかったけど、けっこう当たってるかも！

ボストンの人がキツイというのはこちらでも有名だし、とにかく運転が乱暴で住んでいるときにヒヤヒヤしたことは一度や二度ではない。ボストン市の中心からハーバードやMITがあるケンブリッジ市を結ぶチャールズ川沿いのハイウェイは Massacchusetts Turnpike マサチューセッツ・ターンパイク、略してマスパイクと呼ばれるが、時速軽く80マイル（128キロ！）出しながらギュンギュン車線変更するのでコワイったらなかった。

ニューヨーカーはまあ、全く余裕がない感じで暖かさはない。優しくしたり礼儀正しくする理由も時間もない。これはご想像通り。

さて、ニュージャージー。これがまた変な州でねえ。田舎なのに田舎らしいのどかさはない。もともと南イタリアやアイルランドといったカソリック系の国からの入植者が多かった土地柄のせいか、日本でもよく知られているWASPワスプ人口はとても少ない。ワスプを自認している人たちにニュージャージーに引っ越すという選択肢は、まずない。

WASPはアングロサクソン系のプロテスタント、ヨーロッパから一番乗りでアメリカに来た人たちの子孫でエリート意識が高く、品よくしていることを重んじる傾向がある。遅れて移住してきたイタリア系やアイルランド系は今は白人層として認識されているが、移住し始めた19世紀には被・差別層であった。

その後にユダヤ人、アジア人と移住の民族が続き、現在目にする差別ははっきりとその順番になっている。早く来たもの勝ち、ということだ。奴隷として連れてこられた黒人層については時期など関係なく今も差別は根強い。

現在も、マンハッタンから郊外への移住組は、北のコネチカットか南のニュージャージーかの選択の時点でやはり何らかの潜在的ふるい分けが起きるらしく、州や住む地域ごとの社会学的なタイプの偏りというのは連綿と続いていくようだ。ま、はっきり言わせてもらえばコネチカットのほうがおしゃれで洗練されてる感じ。ニュージャージーは人間臭い…..あくまでも一般論だけれど。

ニュージャージー人はけっこう血の気が多いというのは事実だ。イタリアも、北と南で文化が違うと聞くがニュージャージーには南イタリア系が多い。このことは以前の投稿「マリトッツォを探して」に詳しく書いたのでぜひ読んでいただきたい。

州ごとに訛りがあるが、ニュージャージーはちょっと鼻濁音がまざる。声はデカ目。イタリア文化？で身振り手振りも多め。件のバナナスプリットさんもあの激しさは見るからにニュージャージーという感じの人であった。

今朝はヨガの先生の説法のネタがこれまたニュージャージーっぽかった。先生はイン・ヨガと言ってとても静かなクラスを教えていたら少し遅れてきた人がスニーカーを履いて入ってきた（ヨガのスタジオは裸足）。知らない人もいるのでそれはたまにあるんだが、ドアの近くにいた女性がいきなり

Are you stupid???? あんた、ばかじゃないの！？

と大声で靴を履いてきた人に怒鳴ったんだと。間違っただけじゃん？？？そこまで怒る？

私だって似たような経験はあるよ。犬公園で「ケツの穴！＃！％＆＠！！」と怒鳴られたこともあるし、コストコで私の駐車スポットと狙う人に買い物をトランクに入れるのがもたついているとクラクションを鳴らされたこともある。

失礼すぎて道理にかなわないこういう現象、

Lack of Social Decency 　社会的良識の欠如

は、トランプが大統領に立候補した2015年くらいからひどくなった。トランプが対抗馬を全国放送のれっきとした討論会で「チビ」「マザコン」「ブス」などヘイキで呼び、アメリカ全体がぎょっとしたのもつかの間、あっという間に大統領が言うなら自分だってという感じで社会的に許容されていく（いや、許容はされてないが言ったもん勝ち）ようになった。

コロナの閉塞感でますますひどくなり、今では巷にはブチギレ動画が氾濫だ。コストコに行くとムカつくことが多いのを知っている夫は、私が出かけるときに必ずTikTokに載るような言動は慎むようにネ、と言ってくれる。実際のところ、ニュージャージーの人たちに荒く扱われ続けて20数年、私だっていつブチギレるか実は自信がない（笑）。