なんちゃってニューヨーク

普通の人のアメリカ生活


ダライ・ラマに会ってきた(その一)

英語だと

Tibetan Butter Tea  チベタン・バターティー

と呼ばれるチベットの「バター茶」をご存知だろうか。私は昨日まで知らなかったよ。発酵茶を強く煮出し、バター、ミルク、塩を入れて撹拌していただく。高山地方の、いかにも元気が出そうな飲み物ではないか。日本人と緑茶のように、チベットでは日に何度も何度もいただく習慣があるという。

これは「ダライ・ラマ法王日本代表部事務所」のウェブサイトで読んだ。「チベットの現在」というキーワードで検索をして一番に出てきたのがこのサイトだった。

なぜチベットについてもっと知りたい、と思っているかというと、先日、年上の友人とちょっぴり深い話をしていた時のこと、彼女が唐突に「ダライ・ラマに会いたい?」と聞く。

「そうねえ、一度は会いたい人だよねー」と答えた私に「じゃあ今週日曜日、朝の6時半にニュージャージー北部のティタボロ空港に行きなさい。」と言う。

はあ?

かのダライ・ラマ法王が、今月の20日をもって活動を停止し、悪化した膝の手術のためにニューヨークのコロンビア大学病院にしばらく滞在されるという。入院の前に、チベットコミュニティの人たちのために2箇所で顔見せ(と言っていいのか?)をされ、その一つがスイスから到着されるティタボロ空港なのだと言う。そして、法王の顔の横に場所と時間が印刷された小さな紙切れの写真を私の携帯に送ってきてくれた。

そこにははっきりと「チベタンコミュニティの皆さんへ」と書いてあり、私はそこにジャパニーズの私がミーハー根性半分で押しかけるのはいかがなもんだろうかと彼女にメッセージしたら

No problem. U can go. 問題ない、行ってよし。

と短い返事。説明なし。彼女自身も相当謎めいたスピ系オーラがビシバシ、そしてダライ・ラマ法王になんと個人的に謁見したことのあるその彼女が言うなら、と出かけることに決めた。

到着が遅れ、黒いリムジンで手を振りながらゆっくりと行きすぎるダライ・ラマ法王の顔を拝見できたのはもう日も高くなってからだったが、彼女に「鳥肌が立つよ」と言われていた通り背中の辺りを何かゾクっとしたものが走り、一瞬時が止まったような気がした。これほんと。

2箇所目の顔見せはマンハッタン、ミッドタウン57丁目と紙切れに印刷されていたのだが、そこに到着される頃には情報は流れ、報道陣も押しかける大変な騒ぎになっていた。その様子はのちに件の彼女がインスタ経由で教えてくれた。

もしかしたらチベットコミュニティだけの秘密でもなんでもなかったのかもしれないが、少なくともティタボロ空港に集まった人たちは、遠くアメリカに住みながら、今も続く中国の弾圧で失われつつある祖国の宗教的、政治的リーダー、心理的拠り所であるダライ・ラマ法王に深い敬意を表したい一心で朝早くから集まってきているチベットの家族連れがほとんどだった。

車椅子に乗った老人や、乳児。小さな子供たちにも伝統的な衣装を身につけさせて暑い中、空港入り口の沿道に並んで到着を待っている。中に入れてもらえるのか、ここを通過されるだけなのか、はっきりしたことはわからない。なんのアナウンスも誘導もないが、並んで静かに待っている。

男性もシルクでできた立ち襟の伝統的シャツにビーズの数珠を首にかけた姿がほとんどのなか、ポロシャツで頭ひとつ背が高い夫がめっちゃ浮く(笑)。その彼が「日本みたい」という。日本にかなりの間住んだことのある彼に、震災の後の日本人の秩序と深い強さを思い起こさせるという。

ほんとだ。アメリカ人が集まったら、デシベルは桁違いに違うし、隣の家族が今年の夏にどこに休暇に行くのか、上の子がどこの大学に行っているのか、下手をしたら病歴や離婚歴まで知りたくなくてもわかってしまうのが普通だが、この集まりはひっそりと静かで、他の家族に迷惑をかけない程度の音量を超えることはない。日本だよ。

退屈した子供がぐずっても、強い日差しに疲れても文句を言っている人も不満を顔に出している人はいない。空港の入り口に近ければ近いほど場所的には有利なのだろうが、先についた人を追い越して行きたい方向に無理やり進む人はいない。秩序。これはアメリカちゃうで!

そして、着ているものは違うが、実はおばちゃんは夫とは違い、全く浮いていない…..。顔が似ている…..!!!昔NHKの「シルクロード」を見ていた母が膝を叩き「まあ!私たちの祖先はモンゴル人だよ!間違いない!」と言ったのを今でも覚えているが、そう。中央アジアの顔貌がなんとも言えず日本人なのだ。

顔の作りだけじゃなくてなんというか佇まい、雰囲気、オーラ。お隣の人と言葉を交わす機会もあったが、正面からガシ!と目を合わせるのではなく優しくそっと遠慮がちに目を合わせてくる感じが、うまく説明できんが私は日本人に囲まれて立っているような気がしてしょうがなかったの!

****そしてびっくり、どうやって検索したのか知らないが、夫が National Health Institute (アメリカ国立衛生研究所)の資料データベースからある遺伝子論文を掘り出してきた。それによるとチベット人と日本人にはD−M174と呼ばれる東アジア特有のY染色体の分布が共通して高く漢族など他の東アジア民族とは異なる染色体の混合を示しているという。遺伝子レベルの類似だったのか!!****

いよいよ法王が出てこられる、と沿道が浮き足だった頃、ぐずる小さな子供二人を長いこと我慢強くなだめて相手をしていたおとなりの若いお母さんが、ちょんちょんと夫の腕をつつく。

「尊敬の印にね、この布をこうやって持つんですよ」といって、白いスカーフ状の布をそっと渡してくれた。周りの人たちはほぼ全員手にしているこの布。余分に持ってきたからどうぞ、と、明らかに紛来しているわけわかめアラ還カップルに渡してくれたのだ。サインしてもらえたら、と淡い期待を抱いてダライ・ラマの著書とサインペンを抱えている場違いな二人。

布の持ち方を確認し、ありがとう、ありがとうと、ひとの優しさに感極まっているおばちゃんを周りの人が優しく見ていて、なんだか恥ずかしいやら受け入れてもらったのが嬉しくて仕方ないような。

あの朝だけで、私はチベットに深く惹かれてしまった。教科書に書いてあるコンサイスな史実しか知らなかった国。ダライ・ラマ法王が中国の侵略で命からがらチベットを脱出した話やその後の彼の世界的な活動、教えは折に触れて学ぶ機会もあるが、さて現在のチベットは、と考えて何も知らないことに気づき愕然とした。

…..で、ウェブサイトを巡ってバター茶のことなど学んでいるわけだ。ぐずった子供がやっと昼寝に落ちた頃、わたしたちに白い礼巾「カタ」を渡してくれた若いお母さんもこのお茶でホッと一息入れているのだろうか、と思ったらなんとなく気持ちがホカホカした。

長くなっちゃったので続きは明日。1メートル至近で失礼ながらパチリさせていただいた写真もご紹介しますね!



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ニューヨークから40分南に下ったニュージャージー州から発信。だから「なんちゃって」ニューヨーク。マンハッタンのおしゃれな情報をお探しの方は他にたくさんブログがありますのでそちらをご参照くださいね。元・MBAの仕事人、在米約30年のアラ還。アメリカ人の夫とエンプティネスト元年を満喫中。わんこ3匹で毎日がわや、普通の人のアメリカ生活の記録です。

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