つながるサワードウ・キティちゃん編

たべもの、お料理・スタバ

先日の投稿で、サワードウと言う天然の酵母タネを使ったパン作りに深ーく魅せられるに至った経緯を書かせてもらった。

最近安定してなかなかのパンが焼けるようになってきて、そろそろ次のレベルのサワードウを焼いてみたいと思っていた。そこで出会ったのが可愛らしいインスタグラムの投稿だった。

まるでお茶目な妖精のような、小柄でそばかすの女の子。髪はまるで燃えるようなオレンジ色のくるくる。ちょっと照れたようにカメラをみながら楽しそうに次々にパンを作る姿が印象的な、中学生と言っても通用するような化粧気も何もない素朴な女の子。

彼女の名前はキティちゃん。

Kitty Tait キティ・テイトちゃんという19歳のイギリス人の女の子は、オックスフォード近くの小さな村で Orange Bakery オレンジ・ベーカリーと言う小さなパン屋さんをお父さんと一緒に営んでいる。

14歳の時に原因不明の不安症に襲われ学校に行けなくなった。誰よりも明るい家族の末っ子だったのに、外に出るのも、車に乗るのも、何をするのも怖い。

ただ毎日疲れて、悲しくて、何もできない。そんな状態に突然陥ってしまったそうだ。病院やカウンセラーさんの助けを借りても回復の兆しは見えない。

一人にしておける状態ではなかったため、お父さんは先生の仕事を休み彼女の世話に専念することになった。何か助けになるかもしれないとお父さんが「これをやってみよう?」と一緒に試してみたことの一つがパン作り。

一晩寝かせておいたパン種が朝には大きく膨らんでいる様子に、何を見てもどんよりとしていたキティちゃんの瞳に少し光が戻った。

一度パンを焼き始めたらもう誰も止められなかった。キティちゃんの精神状態はパンに熱中することで保たれているとわかったお父さんは、躊躇いながらもキティちゃんの助っ人となり、またまた大きく躊躇いながら仕事を正式にやめ、キティちゃんに押し切られる形で村にパン屋さんを開くに至った。

わたしもパン焼きの一人としてキティちゃんの気持ちがちょっぴりわかる。膨らむパン種は生き物だ。それも自分が手をかけて育てる生き物。自分の気持ちが不安定な時、目の前で育っていく何かに支えられた、そんな気持ちかな?

Breadsong: How Baking Changed Our Lives (English Edition)
Kitty Tait grew up a funny, chatty redhead who made everyone in her family laugh. But around the time she turned 14, Kit...

この本は、二人のそんなジャーニーについてお父さんとキティちゃんが一緒に書いた本。お父さんの素朴なイラストも可愛い、そして後半はキティちゃんのレシピが満載という、なんともお得な本でもある。

お父さんは、もと特別支援の先生で字を読むのが難しい「読字症」の専門家。キティちゃんとパン屋さんになるまでは、かのオックスフォード大学で教育を勉強する学生に読字症について教えていた。

お父さんの書く文章とイラストは素朴で、思慮深く、イギリス人らしい軽い自ギャグに満ちたユーモアがいっぱい。キティちゃんの書く章は、読んでいるだけでパンへの押さえきれない好奇心が切々と伝わる若々しい内容。

そして彼らの住む小さな村とそこに住む人たち。突然笑顔が消えたキティちゃんがパンを焼き始めたことを知り、最新型オーブンを誰も使わないから、とキティちゃんが勝手にキッチンに入っていつでも焼けるようにしてくれたご近所さん。

タウンホールで初めてパンの販売をした時には村中の人が並んで開店を待ってくれた。パンに忙しすぎて注文し忘れたクリスマスのターキーをそっと届けてくれた肉屋さん。

ロンドンから車で行ける距離に、こんなに素朴な村が残っているんだねとびっくり、心温かくなるような村だ。

コロナのときにはそれこそ大戦時に内地を守ろう!と団結した祖先たちのように、一人で住む人や老人たちを村のみんなで交互に助ける習慣があっという間に戻ってきた、とお父さんが書いている。

そんな温かいお話とキティちゃんの若々しい熱意がいっぱいのこの本を読んだ時の感動は、私の人生で5本の指に入るよ、ほんと (´;ω;`)。

夢中で読んでしまい、もちろん巻末のレシピも一つ一つ試している。ベーカリーを開く資金が足りなかったとき、若い女の子らしくクラウド・ファンディングでお金を集めた。

今はそのご恩返しをすべく、

Breaducation ブレジュケーション

という、水を加えるだけで焼けるパンの種を学校や刑務所、フードバンクやコミュニティに無料で寄付するプロジェクトを立ち上げて、キティちゃんはさらに邁進中。https://www.kittyskits.co.uk/breaducation

学校には結局戻らなかった。今もときどきいつ襲ってくるかわからないパニック・アタックと戦っているそうだ。そんなときは大きな業務用の冷蔵庫に頭を突っ込んで心を落ち着かせるらしい。

残念ながら、この本の日本語訳は今のところ出ていない。早く皆さんにも読んでもらいたいおすすめの本だ。

このキティちゃんが憧れて憧れて、いつかは弟子入りしたいと恋焦がれたのが前回の投稿に出てくるサンフランシスコの Tartine タルティーンとオーナーのチャドさんだ。

Photo by 7×7 Bay Area https://www.7×7.com/tartines-chad-robertson-plans-to-take-over-the-world-1787060864.html

チャドさんの本を隅から隅まで読み、書いてあることを全て試してサワードウの焼き方をマスターしたキティちゃん。

何度も質問や熱いメッセージをチャドさんに送ったものの何年も返信はなく、それでも諦めずにタルティーンのやり方を勉強し続けたキティちゃんに、とうとうチャドさんから短いメッセージが届く。

「これからも私たちは一生懸命に薪割りを続けなくてはならないのだ」という、暗号のようなメッセージ。でもキティちゃんにはその意味がはっきりとわかったよう。前進あるのみということか。

まるで修行僧のようなメッセージだね?そんなふうに私は思った。

次のレベルに進みたいと思っていた私はキティちゃんの本の後、このチャドさんの本 Tartine Bread に決めた。

モダン・サワードウの基本の基本、教典とまでと言われているチャドさんのカントリー・ブレッド。明日焼きに入る分が私の冷蔵庫でちんまり眠っている。

この白いポヨんポヨんの物体の中で前回の投稿の『サワードウの科学』の章のようなことが起こっているのだと思うと、できればずっと眺めていたいとまで思う(笑)

前回の投稿で、一本のドキュメンタリーを見たことで、私の中のサワードウ・ワールドがまるくつながった、と書いた。

「もしかしたらサワードウ界はけっこう狭いのか???」

とも思ったんだが、いやいやそんなことはない。インスタを見ていると見惚れるようなサワードウ・ブレッドを焼くベーカリーが見ても見ても追いつかないくらい。

これはなんと紫いものサワードウ・パン☝️☝️☝️

以前なら「キレイなパンやなー」で終わっていたものが「これはどうやって焼くんだろう」と思う。私もサワードウ作りに取り憑かれた一人だ。

サワードウ作りはクラフトでアート。そして科学で化学で物理学。家庭でできる実験だ。なのにいい香りがして、可愛らしくて、最後は美味しく食べられる。

小さな子どもにだってオーブンをいじる以外のことだったら簡単にできる。自分が混ぜたものが膨らんでいく様子、喜ばない子供はいないと思う。

6000年の歴史を持つパン作り。その時を経て、人々が原始的なパンの作り方に回帰していく様子はなんとも魅力的だ。

今日も冷蔵庫の中の私のサワードウのことを考えながらそろそろお布団に入る。明日は何時ごろオーブンに火を入れようか。

コメント

  1. sheepskitten より:

    はじめまして、こんにちは

    最初の写真を見て”!!!”となり、おもわずコメントさせていただきます。
    BREADSONGいいですよね。レシピもイギリスとスカンジナビアのミックス?で、コメントが一々可愛い・・・。まだ多くは試してないですが、どれも気になる。イラストも素朴で良いですよね。

    サワドウずいぶん作ってなかったのですが、今作りたい欲がわいてきました。(他のページで載せてらした焼きたてのパン、とても美しい焼き上がりで素敵です!)

    また、ネットフリックスのドキュメンタリーと本、知らなったのでチェックしてみたいと思います。いつも面白い・素敵な情報ありがとうございます。これからも楽しみにしています。

    • sheepskittenさん、
      コメントありがとうございます!
      キティちゃんのことご存知なんですね。嬉しい!!

      おっしゃる通り北欧の雰囲気もビシバシで可愛らしい本で、内容も読み応えがあっていいですよね。

      出会えて良かった本の一つです。

      サワードウは思い立って今日!!というふうには焼けないのがネックですが手をかけるだけ楽しいですよね。ぜひまた再開なさってくださいね!
      私の趣味のパンにお褒めのお言葉ありがとうございます、嬉し恥ずかしです。

      このドキュメンタリー、おもしろかったです。色の伝統と科学の両方を教えてくれる感じでした。

      ブログ、読んでいただいてこんなふうに感想をいただけて感激です。これからもどうぞよろしくお願いいたします❤️

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