リンジー・クランシー事件の続報

セレブ・ロイヤルファミリー

ボストン郊外のマサチューセッツ州 プリマス高等裁判所で審理が行われていた「リンジー・クランシー事件」。出産専門の 看護師で3児の母、Lindsay Clancy リンジー・クランシー被告が、2023年の1月に夫が夕食のテイクアウトを取りに行ったわずかの時間に5歳、3歳、8ヶ月の3人の子どもの首をエクササイズバンドで締めてさ○がいし、自らも飛び降りじ○つを図ったものの命をとりとめ、半身不随となったという悲惨な事件である。

事件のあらましや背景については以下の2つのブログで詳しく書いたので、そちらを読んでから今日のブログを読み続けていただくとわかりやすいと思います。

全米が注目する悲劇『リンジー・クランシー事件』アメリカの精神医療について
現在、ボストン郊外のマサチューセッツ州 プリマス高等裁判所で公判中の「リンジー・クランシー事件」。出産専門の看護師で3児の母、Lindsay Clancy リンジー・クランシー被告が、2023年の1月に夫が夕食のテイクアウトを取りに行ったわ...
リンジー・クランシー事件 -アメリカ医療制度の矛盾が生んだ悲劇-
今日で14日目にはいる「リンジー・クランシー事件」の公判。事件のあらましと11日目までのまとめは前回のブログに詳しく書いた。一昨日は、検察側が召喚した解剖医師たちの証言が行われ、幼い子どもたちがいかにして酸素欠乏で死に至ったかという供述が延...
陪審員の全員一致の評決が必要

5週間にわたる法廷での審理が終わったのが先週の木曜日で、その日の午後から12名の陪審員が評議に入った。週末を省いてまる三日たった昨日、陪審員たちから「どうしても意見がまとまりません」と報告があったが評議を続行するよう指示があり、今でも全員一致の評決に至っていない。事件によっては1時間以内に評決が出る場合もあるので、大方の予想通り、リンジークランシー事件は陪審員の意見がかなり分かれている様子。

陪審員たちには、4つの選択肢がある。まずは、

  • 犯人は本当にクランシー被告なのか

を評定しなければならない。クランシー被告の犯行であると同意した場合、以下の3つの中の一つに全員が同意しなければならない。

  • 第一級殺人罪で有罪
  • 過失致死で有罪
  • 心神喪失による無罪

このまま全員一致が得られない場合は、Hung Jury ハング・ジュリー(不一致陪審)と言って裁判が打ち切りになる可能性がある。打ち切りになったその時点でクランシー被告が無罪になるというわけではなく、陪審員を選び直して最初から裁判をやり直すか、まれに検察側が「もういっか」と起訴を取り下げる場合がある(その場合はクランシー被告は釈放される)。

裁判で徐々に明らかになった証拠のあやふやさ

事件直後にリンジーさんが自白をしているので、彼女が子どもをさ◯がいしたのは間違いないと言う前提で始まった裁判は「有罪になるか、心神喪失で無罪になるか」が世間の注目の的だったのだが、後半に入ってから大きく風向きが変わってきた。

警察関係者や元夫の証言にはたくさん妙な部分があり、事実関係と時系列がどうしても噛み合わない。現場に残された砕いた薬の粉末など重要証拠を収集していなかったり、つくはずのないところに残された血痕を調べた形跡がない。凶器にはクランシー被告のDNAがまったく付いていなかった、家にいないはずの夫がその時間帯に家から会社にメールを送っていた、など、犯罪ドラマで知識を得ただけの素人でも違和感を感じる捜査のあやふやさがどんどん明らかになってきた。自白も、証言台にたった法精神科医によると「罪を犯した記憶そのものが妄想だった可能性もある」という。

世間の興味は、「リンジーさんはほんとにやったのか?もしかしてハメられたんじゃないか?」と言う疑問へと大きく方向転換した。

じゃあだれがやったのか?素人ネット探偵たちの捜査

クランシー被告の犯行でなかったとしたらだれが?犯行直後に離婚した元夫と彼の新しい妻が怪しい、という声が異様なまでに高まっている。

ユーザーの興味を掻き立てるために、ゲームや映画などに故意に隠されたヒントやトリック、情報を Easter Egg イースター・エッグ(庭中に隠されたカラフルに色付けした卵を子どもたちが探しだすイースター(復活祭)の遊びから来ている言葉)というが、リアル・クライム分析に興味のある人たちにとってたまらない「謎」や「不一致」などのイースター・エッグでいっぱいのクランシー事件では、それらを次々に探し出してはSNSRedditのリアル・クライム・コミュニティでシェアして自論を繰り広げる、という騒ぎになっている。

10年以上前に撮られた元夫と新妻の写真がどこからか発掘され、事件のたった40日後に一緒にコスタリカに旅行に行っていたことが明らかになった。事件の4ヶ月後にはマンハッタンの高級アパートで同棲を始めているが、その高級アパートは、実は事件の2日前に契約が済んでいた。借主は新しい妻の父親で、エプ◯タインともつながりのある実業家。クランシー被告と一緒に暮らしていた家は、事件の2週間前に夫が単独名義に書き換えていた….。

これらの情報のいずれもがにわかネット探偵たちのたゆまないリサーチの賜物である。事実である確証はない、と言いたいところだが、これらはすべて公開情報からの検索結果であるので事実ではあり、それらをつなぎ合わせてどういうストーリーを組み立てるかというのは聞き手の判断による。

防犯カメラの映像の解像度を上げて元夫の服装をチェックする専門家、5年以上前のマラソン参加者リストから新しい妻との交際期間を探ろうとする人、昔の写真から新しい妻がナイフの角度と一致する左利きであることを発見した人、などネット探偵たちの捜査は続く。

ありとあらゆる専門知識を持つ人達がそれぞれの分析をクラウドソーシングすることで、何年も捜査が煮詰まっていた事件の解決の糸口が見つかった、という有名な例がアメリカにはいくつもあるにはあるが、裁判と並行してのリアルタイムでの過熱ぶりはちょっと怖いものがある。

「検察側に立証の責任がある」

アメリカでは、裁判官や陪審員を「どう見ても有罪としか思えません」と言うレベルまで検察側が納得させなければ有罪にならないというルールがある。

不自然に途絶えたアップルウォッチの記録など、説明のつかない食い違いがあまりにも多すぎて、クランシー被告がまちがいなく有罪と言うレベルまで検察側が立証できたかと言うと答えは素人目にはノーである。あまりに甘い証拠の数々に陪審員が「推定無罪」を言い渡す可能性も高まってきた。ほとんどまともな捜査が行われないままの起訴だったことがわかり、捜査再開をもとめる嘆願書まで提出されている。

ちなみに、マサチューセッツ州は全米でも珍しく「心神喪失による無罪」も検察側に立証の責任がある。つまり「クランシー被告はまったく精神的に平常だった」ことを検察が証明できなければ無罪が成立する。

何でも分断しないと気がすまないネット文化

裁判が始まった当初、アメリカは「子どもを自分の手でころ◯た母親への極刑」を求める意見と、「心神喪失ゆえの事件で殺人罪に問われるのは不公平」という意見で真っ二つに別れたが、「元夫周辺が怪しい」という声が上がってからは、世間の意見は完全に三つに分断。

エプス◯インの名前までちらつきはじめ、大衆の好奇心を掻き立てる材料がこれでもかと詰まった今回の事件だが、まったくの素人が興味本位でわちゃわちゃ言うことの危険性は、魔女裁判を思い起こさせる。元夫の登記簿から、今住んでいるマンハッタンのアパートの住所も、妻の勤め先も実家も経歴も何もかもがネット公開されてしまった。この2人が実はまったく無実だったら?有罪と証明されるまでは無罪のはずだが、この2人はすでに世間から制裁を受けているかのごとく。

白状すると、わたしも夫、または新しい妻がアヤシイと思っている(ここだけの話ね)…んだが、これを堂々と他の人の意見に影響を与える形でSNS発信するなんてできない。とんでもない人権蹂躙だと感じるが、最近のネット社会ではそれってオーケーなんだろうか。

クランシー被告の判決

彼女にくだされる判決についても自分の予想とその裏付けを語るSNS動画が後を絶たない。陪審員が全員一致の評決に至らず裁判打ち切りになるだろう、という意見が主流のよう。

打ち切りになったら「再審」または「起訴取り下げ」であると冒頭に書いたが、マサチューセッツ州がクランシー被告を起訴したあと3年もかけて裁判に臨んだ事件を「あら、そうですか、犯人間違ってました、すみません」と新しい犯人を起訴するとは思えないので、夫たちが罪に問われる可能性は限りなく低い、というのがこれまたネット探偵、ネット弁護士、ネット法精神科医たちの意見である。

 

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