カナダのカーニー首相が「貿易戦争を受けて立つ」と宣言した翌朝アメリカに流れたニュースは、ご立腹の大◯領が5大湖の一つ、オンタリオ湖を「アメリカ湖」と改名してやるぅ!と宣言したことだった。オンタリオ湖はちょうど真ん中に国境が走り、上半分がカナダ領、下半分がアメリカ領である。これについて聞かれたカナダの産業大臣は「はあ?わたしらはオンタリオ湖って呼び続けますけどね?」と別にどーでもいいって感じだった。
湖の改名以外に、今後、両国にどんな影響があるかというのを今日はまとめてみたいと思います。
日本にも大きく影響を及ぼす米加摩擦
このカナダ産業大臣(余談だがすごい美人)が、カーニー首相の発表後に直ぐに連絡を取ったのが自動車メーカーのGM、トヨタ、ホンダの3社。米加の摩擦なんて日本から見たら対岸の火事…って感じかもしれないが、いちばん影響を受けるのは両国の自動車産業だから、マーケットシェアの高い日本企業は打撃を避けられず国内部品メーカーにも大きく影響するし、今後アメリカ以外に活路を見出すべくカナダが積極的に日本に働きかけてくることも予想されるので、真剣に展開を見守る必要がある。ぜひこのまま続き読み進めていただけたらと思う。
米加が貿易戦争に突入した経過については前回のブログをご参照ください。

アメリカがかける関税と、カナダの応酬関税の内容は
アメリカからカナダへの50%関税の品目は、乳製品、農作物、アルコール飲料、衣料、コスメなど、多岐にわたる276億ドル分のカナダ製品で、8月22日の深夜に発効した。アメリカの消費者にはカナダのバターやチーズ、メープルシロップ、トイレットペーパー、プロテインパウダーなどの値上がりが気になるが、来年1月1日には、これらに加えて自動車、自動車部品、鉄鋼への関税が加わることになっており、これらが経済に大打撃を与えるいちばん心配な品目だ。
カナダは、まったく同額の「276億ドル」分のアメリカからの輸入品に対し15%から50%の課税を来月9月8日に発効すると宣言。こちらは鉄鋼・アルミニウム製品、乳製品・畜産加工品、林業・パルプ・紙製品などであり、他には切り札として石油や電力などアメリカがたちまち困る項目への引き上げをちらつかせている。トラ支持者の多い州を狙い撃ちにするなどの「戦略的」な構造になっているそうだ。
USMCA協定という「ゼロ関税」の決まりが崩壊すると
昨年の4月にアメリカがイジワル関税を発表するまで、アメリカ・カナダ、メキシコの間では自動車や農産物、衣料などの品目で細かい決まりを満たしていれば関税はゼロと言うUSMCA自由貿易協定があった。クリントン政権時代に雛形が出来たこの決まりがあったからこそ「国境を6回こえて1台の車が完成する」という連携プレーも可能であり、それを前提としたサプライチェーンが出来上がっていた。
なんと、このUSMCA協定を結んだのはト◯ンプ(第一次政権)ご本人であった。それ以来、色々と気が変わっちゃったんだよね…。カナダのトルドー前首相との確執、ロシアや中国とともに「新国際秩序」を構築してカナダを含む北中南アメリカで覇権を握りたい、歯向かう相手は力でねじ伏せないと気がすまない…など、ま、ホント周りの人にとってはとても迷惑な理由でいろんないちゃもんを世界各国に付け始めたのは昨年のことだった。
トルドー首相との確執などについて詳しく書いたブログはこちら。

さて、関税前と、昨年のイジワル関税発動後では、国境を6回越えて完成する車のコスト体系がいかに変わってしまったかのシミュレーションをすると、間税抜きコスト1万ドル(約150万円)の車体が完成するまでに概算で7,250ドルの関税がかかるようになっていた。
9月8日にカナダからの関税が50%に跳ね上がると関税分は8,250ドル。来年1月にアメリカからの関税も発動すると9,500ドルとなり、1台の車にかかるコストは以前に比べてなんと2倍になる。トヨタやホンダの利益率は爆下がり、増加費用の大半は消費者価格に反映されて、だれにとってもいいことなんかどこにもない(シミュレーションの詳細はブログ最後の参考資料に添付)。
アメリカ、カナダとも失業率が増加
今回の関税で、カナダ側の失業者数は約9万人、アメリカは30万人と予想されている(アメリカのほうが人口が多いからね)。両国とも自動車、建築業、畜産業、農業への影響が甚大。前回のブログに書いた通り、アメリカへの輸出が全体の70%を占めるカナダと、カナダからの輸入が全体の18%にすぎないアメリカでは、被る経済的打撃のスケールが違う。
妥協を呑んで関税を引き下げてもらうのではなく「もうけっこうです」と交渉のテーブルを蹴ったカナダ・カーニー首相の決断をカナダ国民の76%が支持。すでに昨年から多くのカナダ人が「アメリカ製品は買わない」「フロリダもラスベガスも行かない」と草の根的な抵抗運動をしているが、それがますます盛んになりそうだ。
同時に46%の人が「雇用不安」を訴えていて、今はまるで戦時中のように共通の敵に向かって団結し多少の我慢をする覚悟があるが、経済不安がこのまま続くといつまで士気を保っていられるか。カーニー首相、産業大臣、金融大臣などが「正直に言います、経済不安は深刻です。再生には時間がかかります」とスピーチで繰り返している。
アメリカでは、まず自動車産業、畜産業、農業、建築業、アルコール酒業の雇用に大きな影響があるが、もしカナダが示唆するように石油や電力に滞りが出るとなると、生活ラインとしてカナダからのエネルギーに頼っている五大湖周辺やニューヨーク州含む北部の州が大きく打撃を受ける。すでにイラン戦争でアメリカのエネルギーコストは爆上がりしており、目に見える形で消費者の生活を圧迫すると、国民の政権への不満はさらに膨らむ。
アメリカの畜産、農業、アルコール酒業地帯はほとんどが「保守」州であり、前回の選挙では圧倒的にト◯ンプ支持者が多かった。昨年のイジワル関税でそれらの州はすでに大打撃を受けており、政権は巨額の補助金を支給せざるを得なかったほど。さらなる打撃となると間違いなく保守州からの支持率が下がるのに、なぜ中間選挙を控えた今カナダに喧嘩をふっかけるという暴挙に出るのか?謎すぎる。
今回もタコするか?
昨年の流行語大賞ノミネートの「TAC◯」タコ、は「関税かけるぞ!」と脅しておいて引き下がるを繰り返したトラの行動を「いつだって最後になっておじける」と揶揄した言葉の略である。
今回カナダへの関税も「かける、かける」と脅しておきながら土壇場になって3日間発動を遅らせた。カナダが困っている様子を見てまだイケると思ったのかさらなる条件を出したところでカナダが「もうけっこうです」してしまったわけだが、いちばんアメリカ自身が打撃を受ける項目の自動車、鉄鋼と、レアアースメタルや肥料などは実はちゃっかり除外してあった。
まさかカナダにフラレるとは思っていなかった政権はびっくり。翌日「受けて立ちます」とカーニー首相が声明を出した途端に「自動車と鉄鋼も1月から関税かけてやるーーー!!」と発表した(レアメタル、ウラン、肥料、水産物、飛行機関連部品などは除外のまま)。
自動車、鉄鋼の2つがカナダの首を絞めるとわかっている政権、発動までの3ヶ月の間にカナダが折れてくるかすかな望みを抱いての行動であるのは明らか。
カナダだって、呑める条件を出してくれれば関税なんてかけたくないしかけられたくない。公式な交渉は終わったと言ってはいるが、ほぞぼそと秘密裏で条件の出し合いが続いているはず。アメリカだってそうとうびっくりして、困っているのだ、特に保守州の得票数。
「相手がオレ様の言う事を聞いたぞ、俺は勝ったぞ!」と思えることが何より大事なトラの自尊心をくすぐりつつ、小さい妥協は強いられたとしてもカナダが大打撃を避けられる方策があるなら、国民の心情を伺いながら調整を受け入れる準備はあるはず。
タコなるか?
Canada Has Moved On
離婚した奥さんに未練たらたらだけど、奥さんの方はもう新しい相手と再婚して幸せに暮らしている…こういう状況を「奥さんは Move On (留まらずに先へ進む・次へ行く)しちゃった」という。これこそ今のアメリカとカナダ。
カナダは「アメリカ依存」がいかに国の尊厳を脅かすかを身を持って実感し、昨年以来20を超える外交・貿易協定を世界の各国と次々に結んで新規市場と新規パートナーの開拓に余念がない。別れた夫から連絡があれば失礼な対応こそしないまでも、元に戻るなんてとんでもないわ!と思う元妻。別れてからいかに元妻が素晴らしい人だったとわかってもバカな夫は後の祭り。ああアメリカ、なんてことしちゃったの。
カナダは「妻」というよりも「弟」的な存在だったから、そうすとイギリスのウィリアム王子とハリーみたいなもんか?お前なんかだいっ嫌いだ!と言ってアメリカに引っ越したくせにすごすごとイギリスに戻ったハリー(兄と弟が反対だけど)。メディアは「仲直りは!??!」と大騒ぎするけれど、将来のキングとクイーンはすでに move on、公務に忙しくてアホな弟とその嫁なんかどうでもいいと思ってるのは明らかだ(と思う)。
ま、とにかく、アメリカがまた正気に戻るときはかならず来ると思うけど、そうなってももう去ってしまったカナダは戻ってこない。悲しいのう…。
参考資料・国境を超えて完成する自動車のコスト・シミュレーション
来年1月1日以降(関税がアメリカ→カナダ、カナダ→アメリカとも関税率50%)*コストはシミュレーション上の推測
【1回目の越境】材料(鋼鉄):1,000ドル (カナダ → 米)(米関税 50%)500ドル
【2回目】エンジン加工:2,000ドル (米 → カナダ)(カナダ関税 50%)1,000ドル
【3回目】車体フレーム:3,000ドル (カナダ → 米)(米関税 50%)1,500ドル
【4回目】内装パーツ:2,000ドル (米 → カナダ)(カナダ関税 50%)1,000ドル
【5回目】組み立て作業:1,000ドル(カナダ → 米)(米関税 50%)500ドル
【6回目】完成車 として米市場へ出荷 (米関税 50%)5,000ドル
完成車費用:10,000ドル
関税額上乗せ:9,500ドル


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