アマプラの「ジェレミー・クラークソン農家になる」第5シーズンを見終わってしまい、ただ今激しく「ジェレミー・ロス」のわたくし。
大人気のハチャメチャ車番組「トップ・ギア」のホストをクビになった(プロデューサーを殴ったらしい)車キチのジェレミーさんが、次に選んだ職業が「農業」。ド素人が、地元のファーマーたちの協力を得ながらロンドン郊外の農場経営に乗り出したはいいものの、思ったように行かず…。泥と牛のウ○チまみれになりながら失敗を繰り返す彼と地元の人達のドタバタを面白おかしく描いた珠玉の?ドキュメンタリーで、第6シーズンの制作も始まっているイギリスの超・人気番組である。ぜひ皆さんも見てください、オススメです。

By Prime Video – https://www.farmersguide.co.uk/
ロンドン郊外コッツウォルドにあるジェレミーさんの農場
番組を見ていると、「農業経営ってこんなに大変なの」と驚く。
ロイヤルファミリーやベッカム家が邸宅を構える最高級避暑地、プレミア不動産のコッツウォルドに東京ドーム86個分の農場を所有しているジェレミーさんが、セレブならではの資本力で(多分)面白半分で乗り出した農業だが、私たちの食卓を支えるこの業界が実は、日々の収穫に追われる苦労続きの自転車操業であり、ITや新技術に投資したくてもそんな余地はなく、天候や行政の理不尽など自分たちでコントロール出来ない要因にがんじがらめにされている厳しい業界だということがわかってきた。
毎日その恩恵を受けてるのに当たり前すぎて、スポットライトが当てられることはまったくないイギリスのファーマーたち。ジェレミーさんはとことん地元のファーマーの側に立ち、行政の理不尽さに立ち向かい、家畜の屠殺という選択を迫られたときには涙する。セレブだからできる投資をしながらもリアルな農業を見せるこの番組は、ドキュメンタリー・課題定義型ブランディングである。
アメリカ・ユタ州のバレリーナ・ファーム
同じセレブ農業でありながら、まったく方向性が違うのが、アメリカ、ユタ州の「バレリーナ・ファーム」。
元ジュリアード芸術院出身のバレリーナでミセス・アメリカ州代表のハナ・ニールマンさんが、億万長者の旦那さんとともに経営するバレリーナ農場は、死んでも農業の汚さや大変さはでてこない。9人の子供の母でありながらすごい美貌とスタイルを維持するハナさんがロマンチックなサンドレスとリネンのエプロンに身を包み、完ぺきに計算されたアナログのノスタルジーを売る夢物語のインフルエンサー農業。こちらは典型的なイメージ消費型・SNS特化型マーケティングである。
バレリーナファームについて書いた過去記事↓

2つの農場の収益を比較
ジェレミーさんの広大な農場、初年度の総投資額は約25万ポンド(5000万円超)。そこから生み出された収益は、なんと144ポンド(2万8千円)ぽっちだった。地元ファーマーに混じって自らトラクターに乗り動物の世話をしたジェレミーさんの報酬が144ポンド。厳しい農業の現実に目覚めたジェレミーさんは地元ファーマーと連携して、ローカルの産物をさばく目的でパブ・レストランを開店する。お土産店、オンライン販売を併設したジェレミーさんのビジネスは、ロンドンからの日帰り旅行に最適な地の利もさいわいして渋滞を引き起こすほど大当たりしているにも関わらず、「コーヒーからケチャップに至るまで店で扱うものはすべてイギリス産」にこだわった結果、あまりのコスト高に赤字続き。干ばつの続いた今シーズンは本業の農業と合わせて160万円の大赤字をだした。
バレリーナ農場も、昨年、ユタ州ミッドウェーに実店舗をオープン。こちらも渋滞を引き起こす繁盛ぶりで、オンライン、メディア出演料、SNS収益を合わせて2025年には推定12億円から18億円の収益があったとされている。その内訳は、以下のブログで詳しく書いた。↓

ブログ中の表でわかるように、「農場」でありながら収益に肝心の「農業収益」項目がないので、実際の農業が儲かっているのかどうかがわからないのだが、現在のアメリカの状況(コスト高、人手不足)からして多分赤字、または黒字であっても他の収入項目から補填をしないと経営していくのは難しい状況ではないかとお察しする。
肝心の農業で赤字でも、儲かっていく仕組みのセレブ農業
ジェレミーさんが2008年にコッツウォルドに農場を購入した時の値段が約8億円程度だった。その後の投資と地価高騰で、現在の評価額は25億円を超えた。アマゾンとの番組契約料と自身の出演料で潤沢な資金源(推定500億円)を確保したジェレミーさんは、一般の農家では叶わないAIロボットへの巨額投資で行き詰まる業界を打破しようとするなど、現代農業の問題点を定義するブランディングで日々資産を増やし続けている。ジェレミーさんが今シーズン導入したAIトラクター「AgBotアグボット」とソーラー自動除草マシーン「FarmDoridファームドロイド」のお値段は合計で8000万円以上。農業先進国のオランダを尋ねてイギリスとの構造的違いを浮き彫りにした。ここまで違うの、ITでここまでできるの、と、厳しいイギリス農業の現実が世間の注目を浴び、ファーマーたちへの評価と感謝の念が全国的に上がっていると言う大きな意義があった。

こちらがAI搭載・全自動運転トラクターのAgBot(https://www.agxeed.com/solutions/agbots/agbot-t2-5-series/より)
バレリーナ農場の経営方針には「構造改革」「意識改革」のような社会的目標は見当たらないが、多くの人達に、特に女性たちに甘い夢を見させてくれる、という大事な意義?役割?があると言えよう。だれだって、金髪のカワユイ子どもたちを何人もはべらせて、野草で花束を作り、とれたての牛の乳でつくったフレッシュなチーズを味わいたい。草原をスローモーションで裸足で走るヒロインになってみたい。ハナさんと同じハーブティを飲んだらあんなにキレイになれる気がする…だからスーパーの5倍の値段でもいいの。いいんじゃない?夢を見たい人用に演出されたステキなインスタはこちらです。
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そもそもなぜ農業が注目を浴びるのかってこと
世界中、オフィスの仕事を捨てて就農する人や田舎にリターンする人が確実に増えている。上の2つに違いはあれど、「農業」がどうしてここまで注目を浴びるのかを考えてみた。
①「本ものへの飢餓感」
画面越しに見る現実は何がホントで何がウソかわからないし、しかも自分の画面に展開される世界は、アルゴリズムで誰かが自分用に加工してるというのを知ってしまった。ご自分様限定の現実を自分1人で生きてるという不気味な不安感。でも、足元の土と天候は「本物の現実」で、種まき、水やり、えさやり、といったリアルな努力にリアルに応えてくれる植物と動物は、どれだけテクノロジーが発展してもハックできない紛れもない「現実」。そこに妙な安心感を抱くのでは。
②最強の贅沢・ライフスタイルブランディング
「時間と手間をかけて、自分の食べるものを自分で育てること」「サステナビリティ・コンシャスにていねいに生活すること」がめちゃくちゃ贅沢で意識の高い、かっこいいコンセプトになった。金銭的なゆとりがあるというのが条件で、ジェレミーさんの番組に出てくるような本物ファーマーになって生活の苦労をする覚悟のある人は少ないだろうが、一般人がSNSを見て夢見るのはタダである。
③「食糧危機」と「自給」という本能的な恐怖?
ちょっと考えすぎかもしれないが、コロナやホルムズ海峡問題で、世界中がサプライチェーンリスクに直面し、スーパーでの品薄や異様な値上がりを体験した。「お金があっても食べものが手に入らない時が来るかも?」いう恐怖が潜在意識に刷り込まれてしまった?生き残り戦略としての食糧と土地の確保という世界的トレンドのいちばん先を行くのがこのセレブ農業なのかも。
まとめ
わが家で家庭菜園をかなりホンキで始めたのは、日本のナス、きゅうり、シソに小松菜、春菊、長ネギ…と食べ慣れた和野菜を入手するのが困難だったから。今ではかなりの収穫量が出るようになったが、費やしたお金は収穫を遥かに上回る。夫の安定した収入があったからこそ実現できた贅沢だ。
農業、体を使って作業するのが好きな人なら100%ハマる。土の中には「精神安定剤」の作用を持つ微生物がわんさかいるらしいし、日光を浴びるのでビタミンDもバッチリ。汗を書いて運動するので幸せホルモンは出るし、採ってきたばかりの野菜のうまいことと言ったら。
だから自分でやってるときは、上で書いた「本物への飢餓感」だの「本能的な恐怖」だの、実はまったく考えてないっていうのがアマチュア農夫としての本音だけどね!



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