4月に関税が発表になったときには、中国からの輸入品がすべて30%、40%値上がりしてしまう!?と恐れたが、ほとんどの大企業は関税分を自社で吸収して値上がりを避けるという方針を取ったため、このホリデーシーズンも「極端な」支出増に悩まされるということはなかった。極端ではない「ジリジリ値上がり」は毎日続いていて、特に食料品の買い物に行くスーパーでそれを強く実感する。
来年からは関税分を価格に転嫁せざるを得ません、と公表している企業の中に、ナイキ、アディダス、各種自動車メーカー、ウォルマートなどの小売店も名を連ねていて、アメリカの中央銀行に当たるFRBの議長が「関税による物価上昇の波が2026年第1四半期に到来する」と警告。
家賃、健康保険料、電気代など固定費の値上げも半端なく、各種経済統計を分析なんかしなくたって来年がとってもキビシイ年になるっていうのはわかってるんだけどね、今週はふたつ大きな経済指標が発表になったので、ちょっと見てみましょう。
1. 消費者物価指数(CPI)
パンデミック後期に前年比9%を記録したインフレ率が4年間でどんどん下がり、バイデン政権の4年間に大きく改善したアメリカ経済は、英エコノミスト誌が「The envy of the world(世界が羨む)」と表現したほどだったんだけど、ああその崩壊は早かった。順調に下り続けたインフレ率が新政権発足の2ヶ月後からジリジリと上がり、政府閉鎖のため発表されなかった10月は民間調べで4%まで上がったと言われていたが、蓋を開けてみると今月は2.7%と大方の予想を裏切って低下した。こちらが推移。
| 2025年 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 |
| CPI (%) | 3.0 | 2.8 | 2.4 | 2.3 | 2.4 | 2.7 | 2.7 | 2.9 | 3.0 | 欠落 | 2.7 |
いいニュース!のはずなんだけど残念ながらこれは「見せかけの鈍化」。10月は政府閉鎖のためデータ収集は行われず、今回の低い消費者物価は、11月初旬からのブラックフライデーのセール期間の価格を反映しているにすぎない。そして、これらに反映されない電気代など固定費の値上がりで、消費者の体感はとんでもないが2.7%なんかじゃないぞ。
2. 雇用統計
インフレ率以上に深刻なのが雇用市場。関税やら政府方針で今後どうなるかわからんし、利益率は落ちてるし、ということでアメリカ企業は、「じゃんじゃん社員を雇う」という状況からはほど遠い。失業率はじわじわと上昇を続けて、とうとう2021年(パンデミック時)以来最悪の4.6%に達した。24歳以下の失業率はなんと10%である。
そして、10月、11月合わせてアメリカ全体で失職は6万件を越えたのに一度失職すると「半年以上再就職できない長期失業者」が25%を占め、特に年収を20%〜30%下げてようやく決まる「ダウングレード再就職」が目立っているそう。いかにストレスいっぱいの職場でも新しい仕事を探すのは至難の業、我慢して働いてアメリカのメンタル全体にも絶対大きく影響してるはず。
| 2025年 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 |
| 失業率 (%) | 4.0 | 4.1 | 4.2 | 4.2 | 4.2 | 4.1 | 4.2 | 4.3 | 4.4 | 欠落 | 4.6 |
この2つの指標に加え、ミシガン大学が毎月発表する「消費者態度指数(University of Michigan Consumer Sentiment Index)」。消費者がどの程度安心してお金を使えているかの自信と体感温度を示す指針として信用の高いこの統計の推移を見てみると、

セントルイス連邦準備銀行のデータサイト(FRED)より引用。
1980年頃(第2次オイルショック)と2009年(リーマン・ショック)に次ぐ最低ラインに近づいてきてる(怖)。12月は出費が多い月だけに、2026年1月はお財布の引き締めが進み、一般消費はますます減るに違いないと考えると、、消費が減る→デフレ→物の値段が下がる、というサイクルに入るはずが、雇用は減るが値段だけは外的要因により上がり続けるという最悪のシナリオ「スタグフレーション」は2026年には必ず起こる…と多くの学者さんたちが見てる状況だ。
どうしてこんな事になってるかという要因は、
1. 関税
関税だよ、関税。それも、関税をかけてはやめかけてはやめ、という方針の一貫性のなさ。現在最高裁で審議中の一部関税は排除になる可能性もあり、企業はもう、どうしたらいいかわかんない状態。消費者グッズはじめ、農業に必要な肥料、製造業の原材料、機械類、すべて値上がりでこのアメリカ、関税の影響を逃れて隠れられる場所はどこにもない。
2. いろんな政策方針
政府閉鎖の原因になった「健康保険料の税金控除」が12月31日で終了になる。現在国民健康保険にあたるACA保険の利用者の保険料は20から400%(!)の値上がり予想されている。ACA利用者でなくとも、医療費の値上がり(人不足、経営コストの値上がりなどが起因)で全国平均20%の上昇予想。我が家の値上がり率は29%、眼科の保険は月4ドルだったのが来年から11ドルだって。3倍近くだ。なんでこんなに国民が困る法律が議会を通過するのかとっても不思議だが、健康保険料はただの一例なり。とにかくいろんな政府からの補助が見事なまでに消えていく。手持ちのお金がないのに経済に貢献はできない。で、全体的にますます冷え込む。
3. マグニフィセント10など巨大AI企業の急激な伸び
あると便利なAIだけど、それに伴うCollateral Damage コラテラル・ダメージ(巻き添え被害)がハンパないAI業界。実際10名くらいが牛耳るこの業界はお互いがお互いの会社に投資をし合って会社資産を実際より大きく見せるCircular Investment サーキュラー・インベストメント(循環投資)が日常茶飯事。一般投資家もさすがにその脆弱ぶりに気づき、そろそろAIバブル崩壊?という議論が活発だが、消費者にとって一番身近な被害としては、データセンターの電力消費に追いつけず、私らが払う電気代が冗談みたいに値上がりしている、ということ。
4. 経済の二極化、Kエコノミー
実体経済は低迷しても、AIのお陰で株式市場が活況なので、その恩恵を被れる富裕層は潤い続ける。ラグジュアリーブランドの売れ行きが伸びているのと真逆に、低価格帯の食料品や日用品のシェアが伸びている。上位1%の富が増えれば増えるほど、税制を含む現政権の政策への影響力が強まりますます強者のための経済へと傾き続ける、と。
まとめ
ほーんととんでもないんだが、アメリカの経済不透明感は、政策が招いた Own Goal オウン・ゴール(自業自得)。「関税でアメリカの黄金時代を取り戻す」といい続けた政府だが、コーヒー豆、牛肉など値上がり率が高い品目の関税を11月に慌てて除外した。「関税が家計に与える負の影響」をもちろん政府も承知していたということの現れだ。アメリカに製造業を呼び戻すための関税という大義名分も機能していない。製造業の雇用統計は7ヶ月連続で減少している。
関税前に慌てて輸入した企業の在庫も底をつき、値上がり防波堤はそろそろ崩壊。アメリカは今年以上に混乱しそうなイヤーな予感。
過去ブログ
電気代値上がりの仕組みを説明したブログ↓

AI企業と政府の蜜月についてのブログ↓

他にもブログの「経済・関税・インフレ」カテゴリーをご参照ください。



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