アメリカでは、地域の平均所得によって学校の質が大きく変わってくる。公立学校の予算のかなりの部分がその自治体の税収入から捻出されるためである。
学校の質が良くなれば教育熱心で世帯収入の高い家族が引っ越してくるので、ますます好循環が続く。逆に低所得地域の学校では十分なサポートが受けられず、質がさらに下がっていくという、こちらは悪循環になる。
私たちは結婚した年にボストンからここニュージャージーに引っ越してきた。全く土地勘がなかったので勤務先とマンハッタンの中央ぐらいに位置するところにしようと、地図にダーツを投げて引っ越し先を決めたようなものである。その頃はマンハッタン行きの直通電車はまだ開通しておらず、アメリカのごく普通の郊外の町だった。
数年してミッドタウン・エクスプレスという通勤電車が開通してからはマンハッタンからの通勤族がどんどん引っ越してきて地価が上がり、それに従って学校の質も上がっていった。
その頃なにかの雑誌で「アメリカで一番住みやすい郊外の街ベスト10」に選ばれてまたまた地価が上がり、瞬く間にニュージャージーの公立学校ランキングも3位に。
公立学校のランキングがいいと、中国、韓国などの東アジア系とインド系の家族がたくさん引っ越してくる。長男が小学校の時には全学年で2、3人しかいなかったアジア系の生徒。去年次男が高校を卒業した時点では多分学年の30%ぐらいはアジア系とインド系ではなかったかと思う。特に、次男が属していたオーケストラではほぼ80%がアジア系だった。
余談になるが、アメリカでは高校2年生の時に受ける全国共通模試の成績で上位5%が受賞する
National Merit Scholar ナショナル・メリット・スカラー
という賞がある。今年はこの町の高校で25人ぐらい受賞したということだがそのうちなんと22人がアジア系とインド系だった。日本でもよく知られていると思うけれどアジア系、インド系生徒の優秀さはちょっと半端ない。成績だけで合格を決めていると大学がアジア系の学生だらけになってしまうのでやはり足切りのようなものもあり、差別なのか逆差別なのかよくわからないがそういうことになってしまっている。
とにかく地価上昇の波に乗れたのはラッキーだったけれども、この町を選んだのはほとんど偶然だったので私たちが別に賢かったわけでもなんでもない。

長男の高校卒業までは、駅からも学校からも歩ける距離に住んでいた。通勤に便利なので子供ができたからマンハッタンから郊外へ、引っ越すなら学校のレベルの高い町へ、という若夫婦もどんどん引っ越してきて、気がつくと私たちはそのストリートで結構年齢が上の方になってしまっていた。入居した時には私たちが若夫婦だったのだ。
長男が大学に行った時点で、駅からかなり遠い場所に引っ越した。夫はもうマンハッタンに通勤することはなくなっていたし次男は高校。学校から2.8マイル離れていないとスクールバスに乗れないのでそれだけは気をつけて家を選んだ。スクールバスに乗れないと自分で歩いて行くか自転車か親が車で送り迎えをしなくてはいけない。
さてさて引っ越してみてびっくり。ここはこの町のプチ・チャイナタウンだった!正確にはアジア人街と呼ぶべきか。左斜め前はインド系、右斜め前は韓国系。お隣も韓国系なら斜め後ろは中国系。裏手は旦那さんが白人奥さんがインド系。この路線のスクールバスはほとんどがアジア系の生徒でちょっと笑ってしまう。
同じ町でも、駅近くに比べるとこの辺りの家は広め(我が家以外ね)だからかな?近くに住む家族や母国から訪ねてきた家族も長期滞在できるように余分のベッドルームがある家が多いように思う。仲良しのインド系の友だちに聞いたが「大きな家」というのは成功したインド系必須のステータスシンボルで親兄弟もすごく喜ぶ、ということだった。
またアジア系、インド系はおしなべて世帯収入が高くマンハッタンにちまちまと通勤しなくてはいけない仕事をしている人というのも少ないようだ….経営者が多い。一般論になってしまうので、これはあくまで私のご近所の観察ということにしておいてほしい。
次男が去年の6月にめでたく公立高校を卒業し私たちはこの町の学校システムと完全に縁が切れた。固定資産税の高いこの町に住み続ける必要はないんだけれどもやはり治安もいいし慣れた土地は離れにくい。せっかくキッチンの改装の目処もたったことだし私たちはしばらくここにいると思う。
アメリカ人はやはりフットワークが軽くて、子供が学校を卒業する時点で固定資産税の安いフロリダ州やノースキャロライナ州、または子供の大学の近くや家族が住んでいる州などにちゃっちゃっと引っ越してしまう家族が多い。

家の売買はサイクルが約3ヶ月と言われていて、子供が高校を卒業する6月に合わせ暖かくなってきた3月になるとこの町には売り家のサインがたくさん出る。次男が卒業した去年は同級生の家への前庭にかなりの数のサインが出ていた。そのあたりはかなり露骨で面白い。
引っ越し先ではリモートで働いたり定年したり今までやってみたかったことをしたりとその辺の自由は日本よりかなり効くのかもしれない。
私立に行かせる余裕のある家庭は別として、普通の家庭のすごろくは公立学校のシステムとともに進む。結婚と出産が大きな節目としたら、その後のすごろくのくねくねは「幼稚園」「小学校」「中学校」….と印がついていて、親の人生を左右するのは学校。学校を左右するのは世帯収入….複雑なような単純なようなアメリカの人生すごろく郊外の町編です。



コメント