King

おもしろ英語・おもしろUSA

イギリスのインディロックバンド、Florence and The Machine。ちょっと掠れた感じなのに透明感のある声と、長い赤毛の背の高い美しい人がリードボーカルのフローレンスさん。

彼女が詩を書いた曲、Kingは2007年の作品です。

ドラマチックでエキセントリックと評されているこのバンドの曲は、歌詞が私的、詩的、夢想的で抽象的。決して明るくはないのです。でもこの曲、Kingのオープニングは

We argue in the kitchen about whether to have children キッチンで子供を持つかどうかでいい争いになったの

いつもとちがってとても現実的だったのであれ?と思い、残りも注意して聞いてみるとやはりフローレンス節、心に突き刺さるように彼女の痛みを感じる「苦しみ」の曲でした。歌はこう続きます。

We argue in the kitchen about whether to have children
About the world ending and the scale of my ambition
And how much is art really worth?
The very thing you’re best at
Is the thing that hurts the most
But you need your rotten heart
Your dazzling pain like diamond rings
You need to go to war to find material to sing

I am no mother
I am no bride
I am king

キッチンで子どもを持つかどうか、そしてこの世の終わりと私の野心について言い争いになったの

私が作り出す芸術に一体どのくらいの価値があるっていうのかしら

私の天命が私を一番苦しめる

でもその苦しい心とダイアモンドの指輪のようにギラギラと輝くその痛みが必要なの、それを持って何かを歌うために戦いに行かなくてはならないの

私は母親でも妻でもなく王様なのよ

更に2番へと続きます。私を苦しめるものは自分なの、やっと戦いが終わったと思ってもそんなことはない。自分で満足できるような才能などないと思いしらされながら着飾ってステージに立つ。

自分が十分でないという思いから開放されることはない….と聖書からの引用をまじえながらアーティストとしての産みの苦しみを描いています。母や妻になる選択肢は許されない創作という悲しい王国の王様として、突き動かされるように自分との戦いに挑んでいかなくてはいけない運命への執着と悲しさ、ものすごい迫力の歌です。

2007年と言えば、アメリカで始まった#MeToo運動すなわち21世紀の大きなフェミニズムの動きがまだ燻り始めたばかりの頃。女性の立場は法的には昔より保証されてきていたものの、実際はセクハラも給与待遇の差も、そして家事子育ての分担の不公平も今のように社会的に厳しく制裁される状況ではなかった。

その中で、この歌。私はKing。Queenではないのです。

表現者って苦しいんだな。

苦しくなければ表現できないタイプのアーティスト。

村上春樹の「職業としての小説家」を読んだときも、まるで禅僧のように規律正しい生活を送り書くためのエネルギーを厳しく管理している姿に愕然としたことを思い出しました。

Queenといえばフレディ・マーキュリー。クイーンが全盛だった年頃には私は歌詞を聞き取れる英語力はなく、声の良さや歌のテンポは好きだったけれど意味なんか全然わかっていませんでした。

ゲイで、派手でエッチな生活を送ってエイズで死んだ人、としか思っていなかったフレディの半生を数年前の映画「Bohemian Rhapsody ボヘミアン・ラプソディ」で初めて深く知り、そこでまたまた産みの苦しみについて考えさせらたのです。

映画タイトルにもなっている Bohemian Rhapsody の曲の主人公は「I am just a poor boy 俺はただの貧乏な男、その男が

Mama, I killed a man ママ、人を殺しちゃったよ

という告白をするところから始まるこの曲は、貧乏暮らしの中で殺人を犯してしまった男の贖罪と絶望の歌だとばかり思っていたら、ちゃうねん!

殺したのは自分。今までの自分。絶望と苦しみの中に生きる自分を殺して生まれ変わりたいという歌….だったのだ!

歌詞に出てくるスカラムシュとベルゼブブは両方とも悪魔。そんな悪魔を心に抱くようにして生きていた自分を変えたいという心の叫びの歌だった…。

あの時代にゲイでしかも有色人種のフレディ。家も裕福ではなかった。売れ始めてからはメンバーとの確執に薬物中毒。反してフローレンスさんは同じイギリス人ですが、古くは王室の血を引く名門階級の産まれで、一流の学校に進学もしています。

真逆にいるような2人ですが、表現者の苦しみって生活のレベルを超越するんだろうな。あまりにも繊細な心とそれを表現せずにいられない才能を神様に与えられて生まれてしまった人たちのさがについて深く考えてしまったのでした。

コメント

なんちゃってニューヨークをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む