先週、ニュージャージーのローカルニュースを見ていて腰を抜かした。複数の覆面のカモフラージュ服たちに追いかけられて歩道にころんだ小柄なヒスパニック男性。たちまち5人ほどが彼に馬乗りになり、腕を後ろ手に縛り上げて引きずるように車に乗せている。あの…。背景は間違いない、この辺に住む日本人女子御用達、隣町の韓国系ベーカリー、パリ・バゲット(通称パリバゲ)のお向かいにあるガソリンスタンドだ。この間さつまいもペストリーを買ったばかりだよ…。
いつか来るだろうとは思っていたけど、とうとうニュージャージーのいろんな町に彼らが頻繁に出没するようになった。おばちゃんがテレビのニュースを見た日、この町では合計11人が拘束されて姿を消した。
この町はヒスパニック系だけでなく中央アジアや中東系の住民も多くて、珍しいウズベキスタンのカフェやトルコ料理の店、コロンビアのコーヒー屋さん、メキシコ料理、もちろんアジアのタイや韓国、ラーメンも楽しめる楽しい町だ。SNSによると、シャッターを下ろしているエスニック料理の店が目立つらしい。学校にも欠席が目立っていると書いてある。
そうそう、映画制作に税優遇制度のあるニュージャージーでは最近よく映画のロケが行われていて、この町にはカフェが多いのでメリル・ストリープがコーヒー買いにきた!とかシャラメくんがスタッフと歩いてた!などのSNS投稿も多い。なのにこの町で…。ショック。
アメリカのほとんどの州にはその州を代表する大都市というのがあって、例えばイリノイ州のシカゴ、ペンシルバニア州のフィラデルフィア、マサチューセッツ州のボストン。「ボストンはどこの州にあるんだっけ?」とかえって州の名前のほうが知られていなかったりする。
おばちゃんの住むニュージャージー州は、というと、誰もが知っている中心都市というのがまったく存在しない珍しい州なんである。今でこそ一つの州だけど、ニューヨーク州とペンシルバニア州に挟まれて2つの文化圏に分かれた背中合わせの植民地として地味に発展した、という事実や、州が500以上の小さな行政区に別れてそれぞれが管轄のミニ政府を運営しているなど独特の歴史があるため。
人口に対する移民の比率が高く、人口の4分の一が外国生まれというニュージャージーは「サンクチュアリ(聖域)・ステート」として移民に寛容な政策を取ってきた。今年に入って、サンクチュアリステートやサンクチュアリ・シティに重点をおいて取り締まりを行うことになったらしく、市民女性の射殺事件以来問題になっているミネソタ州のミネアポリス市、ここもサンクチュアリ・シティである。
州の方針と、ターゲットにできる大都市がないなどの理由で、移民の多さに反して今までニュージャージーには段違いに取締が少なかった。昨年「身分証明書の常時携帯」を義務つけられたときにはスーパーに行くのも怖い気がしたこともあったが、今では当初の不安も少し緩んできていたところだった。
大都市がないだけにいろんな郊外の街に分散して取り締まりを行っているらしい。避けた方が良い場所がたくさんあるということか。出没している町のリストを見ると、ヒスパニック住民の多い地域とアラブ系の多い地域に集中している。アジア人は比較的安全かというとそんなことはなく、ニューヨークでは中華街のレストランで全員が拘束されたという事件もある。不法移民でなくても連行される場合が多々ある。
ここから車で30分の距離には大型収容所を建設予定と言うし、危ないとされる町のいくつかはおばちゃんの行動範囲とガチでかぶっている。パリバゲのある町、韓国系のHマートのある町、鍼灸院のある町。IKEAのある町も。おばちゃんと同様IKEAが大好きな末っ子と、しばらく行かないほうがいいかもね、と話す。まさかこの人生で「収容所」なんて言葉を使ったり、自分の行動範囲に気をつけなくてはいけなくなるとは思ってもみなかった。
ニュージャージーに引っ越すと決まった時「ニューヨークに近い!」と喜ぶおばちゃんを見て義理家族や友人が「うーん」と微妙な反応をしたのを今でも覚えているが、たしかにニュージャージー、ちょっとユニークな州である。日本だと名古屋?滋賀県?いじられキャラのこの州は「ガサツで単純でいまいちアカ抜けてない人たちが住む州」という評判をいただいている。
引っ越し当初は人々のがさつさ、声のでかさ、運転マナーの欠如、食べ物の大雑把さ、ニューヨークに近いのにニューヨークに行ったことがない人の多さ(笑)に面食らったが、スルメのように?噛めば噛むほどじわじわと良さがわかってくるニュージャージー。ニュージャージーで育つといずれはニュージャージーに戻ってくるという噂の(けっこうこれホントかも)州。ニュージャージーは、典型的な Grower グローワー。Grow は「育つ」。最初めっちゃ面食らったのに、なんか知らないうちに自分の中に愛着が育っている、という意味だ。
今でこそ「白人」だけど移民初期にはそのカテゴリーに入れてもらえていなかったイタリア系、アイルランド系のカソリック系の子孫が多く、なんというか、ちょっと頭に血が登りやすい血統のひとたちが多いかもしれん。「州認定の公式スポーツは車の煽り」と言われるくらい車の運転に関してもイラチ(関西弁でせっかち)が多く「大阪のおばちゃん」バイブを出しているお母ちゃんたちも多い。
自ギャグも大好きで、ブルース・スプリングスティーンのアルバム名をもじって「Only The Strong Survive (強者だけが生き残る)ニュージャージー」なんて染め抜かれたTシャツや、冒頭写真「怒鳴ってるんじゃないのよ、私はニュージャージー出身だから声がでかいだけ!」みたいなのをよく見かける。(写真https://www.redbubble.com/shop/funny+new+jersey+t-shirtsbbより)。
直通電車で交通の便が良くなるにつれて、郊外にマンハッタンのベッドタウンが増えて「アカ抜けた」人たち、意識高い系の人口も増えて、そのおかげ?で劇場や美術館、レストランも充実したし(引っ越してきた時にニュージャージーにスタバはなかった)、伝統的に民主党が強い地域であるので教育や福祉の質も50州の中では常に上位。おばちゃん家族はとても住みやすい州と思っている。
「大都市」が存在しないのは、先程述べたちっこいちっこい行政単位、学校区も警察の管轄も異なるので一つの大きな都市として発展できない、という理由がある。おばちゃんが住む町は、駅の周りに全長800メートルにも満たない小さなダウンタウンがあるだけなのに、町がさらに「ボロ」と「タウンシップ」の2つの村?に分かれていて、警察もボロ警察、タウンシップ警察の2つの管轄に別れているというややこしさ。同じ町の中でボロからタウンシップに引っ越したあとは、下水道からゴミの収集まで支払先の変更が必要だった。この小さい地方政府を賄うために、ニュージャージーは全米で固定資産税が一番高い州。
こんなふうに、州によって法律も行政もさまざまで、文化も人のカラーも大きく違う。州政府の権限が強くほとんど「国」として立派にやっていける州がたくさんある。カリフォルニアは「国民総生産 GDP」が日本を抜いて世界第4位である。これからアメリカ連邦政府がどんどんやばい方向に傾き続けても、州の権限が完全にファ★ズム国家へ移行する歯止めになるのでは、と思う。っていうか、願う(汗)。



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