日本でもヒットした名作映画、Life Is Beauiful ライフ・イズ・ビューティフル。家族3人で一緒に暮らす日を夢見てユダヤ人収容所に紛れ込んできてしまった5歳の息子を命がけで守る父親の話だ。
記憶の隅っこにあったこの映画のことを考えたのは、金曜日に近所の同い年の奥さんの訃報を聞いたから。5年間のガン闘病の末、家族に見守られて穏やかにこの世を去った。
彼女と知り合ったのはこの家に引っ越してきてからだから、時間にして4年にも満たなかった。アメリカ生まれのアジア人が多い中、彼女はソウル出身の韓国人。昨年の12月には、クリスマスが終わって落ち着いたらお昼に行こうね、韓国系アメリカ人の旦那さんは韓国焼肉のいい店が見つかったから行こうね!なんて話をしていたのだ。
その数週間後にはがらがらと体調を崩した。3回目の化学療法も虚しく、祖国の韓国の土を踏むことなく衰えた体の感染症で亡くなってしまった。実現しなかった12月のご飯のこと、そして韓国スーパーで見かけ、届けてあげようと思っていた韓国メロン、おすそ分けをいつもとても喜んでくれた菜園のニラなどが次々に私の心に去来していきぐるしかった。
救いになったのは、夫婦ともに経験なクリスチャンの旦那さんが、フェースブックに「ソンヒはいま神様と一緒にいます。5年間壮絶な戦いをして、今やっと、天国で休むことができます」と書いていたこと。911事件でご主人をなくした友達のキャシーも「デニスはいま神様とともにいるのよ」と言っていた。宗教を持っていることの強さに畏敬の念を抱き、そしてそのことで私の気持ちはすこし軽くなる。
ソンヒのヒは「姫」だろうな。でも「ソン」がどんな漢字なのか知ることはついになかった。親しくはしていても、4年の付き合いでは彼女がどんな人生を歩んできたのか深く知ることはできなかった。
旦那さんがフェースブックにあげた二人の結婚式の写真。ソンヒは別人だった。ふっくらとした頬にきれいなメイクを施し、透き通るように真っ白な肌。ブーケを持って笑う彼女の笑顔も見たことのない明るさだった。
知り合ったときにはすでに2度の化学療法を経験し、また生えたけど薄いままなのよ、とよく前髪に触る仕草をしていた。痩せた体が、がんに良いという草食ダイエットを始めてさらに細くなっていた。
友人の死を悲しむとは一体どんなことか。もう会えないことを悲しむこと、それとも死の前になにかしてあげることがあったのではないかとおもう後悔か?そして自分の前には広がる将来に罪悪感を覚えることか?週末はにこころを潰されているような気になりながら、自分の気持ちがとても「自分本意」であることを恥じた。
フッと気持ちが楽になった瞬間は、斜め向かいの家の近く、旦那さんと二人の息子さんのそばにまだきっといるだろうソンヒに「最後に会えなくてごめんね、韓国メロン届けてあげなくてごめんね」と心のなかで話しかけたときだけだった。その時だけは、今日も昨日と変わらない一日を過ごすことができる自分を受け入れられる気がした。
彼女は58年の短い人生を神様にもらって生まれてきた。癌になる人ならない人。羨むほどトラブルのない人生に恵まれる人もいれば、不公平なほど悲しい人生を歩む人もいる。人生は長さも太さもそれぞれだ。ひとりひとり違う。とてもパーソナル。
遺伝子工学者の義兄は、人間は生まれてきたときにだいたいどんな死因でこの世を去るのかが遺伝子学的にはだいたいわかる、と言っていた。それに「体験」と「こころの状態」が加味されて人生が決まるのだろう。
ひとりひとりの体に詰まった体の機能、遺伝子、体験、気持ち。このパッケージは完全カスタマイズのパーソナル仕様。他の人にはいじることも変えることもできない。孤独だ。
Life Is Beautiful、人生は美しくて、そして悲しいほど
Life Is Personal. パーソナルで孤独。
でも人は人がいないと生きていけないし、パーソナルな人生の塊である社会を社会として機能させるべく助け合う義務がある。そして家族や友人、周りの人からもらうポジティブパワーのとんでもない強さよ。
今日は月曜日。この週末の悲しさから私を引っ張り上げてくれたのは日本にいる親しい友人たちとの4人のグループチャットだった。ひとりは若くして双子のように仲の良かった妹さんをがんで無くし、もうひとりは自身が2度のがんを乗り越えて寛解。でもまさに今、彼女のお母さんががんと闘っている。少し若い一人は🔥絵文字🔥一杯の楽しい文面で、深くなりがちな他3名の会話にひたすら「元気出せ!」と発破をかけてくれる。

これからガーデンセンターに行ってくる。去年食べた韓国メロン「チュミ」から取った種は芽を出して、来週には地植えに移せる。その前に根付きにいいと聞いた肥料を買ってくる。ソンヒのために今年はたくさんの韓国メロンが実ってくれるように祈りながら、私は私のできることをやりながら毎日を感謝して生きていこうと思う。



コメント